Scarf Ribbon

本田玲臨

Scarf Ribbon



「初恋でした」


 そう告げる彼女の顔が近い。

 いつもの真白の肌は、微かな朱色に染められて。

 黒い大きな目が、自分を射抜くように見ている。その目は、今にも雫がこぼれてしまいそうな雰囲気だ。

「本当に、好きだったんです。あの日あの時貴女がしてくれた事は、貴女にとっては些細な事でも、私にとっては人生が変わるくらい大切な事で……」

 まくし立てるような早口で、彼女は口を動かしていた。しかしすぐに彼女は口を閉じて、今度はか細い声で「ごめんなさい」と呟いた。

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」

 何度も何度も。

 私の記憶に擦り付けるように。

 自分の心から吐き出すように。

 私は押し倒されてキスされた事実に、そして彼女からの告白に驚くばかりで、ただぼうっと謝り続ける彼女を見ていた。


「ごめんなさいごめんなさい、好きになってごめんなさい」


 呪文のように紡がれる、自分を責める言葉は止まらない。

 とうとう彼女の目から涙の雫が一滴流れた。それはどんどん追随するように流れていく。

 それは私の胸の白いスカーフリボンに落ちて、染み込んでいく。


 夕焼けが教室を照らす。

 それはまるで、私達を世界から切り離す為のスポットライトの役割をしているかのように思えた。

 私はただ泣く彼女を見つめ、

 彼女は私に懺悔を続け、

 二つの混沌とした心を象徴するように、私のリボンは濡れて変色して、形が変化してリボンの先が垂れた。


「ごめんなさい……」


 また一つ。

 雫が落ちて、じわりと染みが広がっていった。

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Scarf Ribbon 本田玲臨 @Leiri0514

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