終. 黒猫と仲間

第廿陸話 黒猫と仲間

 ガタガタと電車に揺られて、俺達は紺鉄こんてつの街へと戻ろうとしていた。

 その駅前で、俺は号外を貰った。

 見出しはこう、【白銀はくぎんの街の町長、幹部に疑惑が浮上! 妖百鬼を人工的に作っていた可能性高】と。

 記事を読んでいくと、匿名で各新聞社やラジオ局に同じ内容の手紙が何通も送られ、そこには事細かに町長の裏の悪行が書かれており、その裏が取れたとの旨が書かれていた。

 他にも、研究所の事故もバレた事により、そこも更に追及される見通しもあるとの事だ。その他、数え切れないほどの罪の容疑が掛けられていると。

 このまま裁判に行けば、恐らく終身刑は免れないだろうと、専門家の見解が書かれていた。

 これで、少しばかりは白銀の街の治安が改善されるといいのだが。


「.....何か、色々あったな」

「あぁ」

 寝台列車のベットに寝転がり、悠威は眠たげな瞳で俺が向けている側の記事を読んでいるようだった。

 俺達以外には客のいない寝台列車で、それぞれゲームなどを楽しみつつ、今はのんびりと各自の部屋で就寝していた。

 架深のみは一人部屋で、他は二人部屋。俺は悠威と同じ部屋だった。

「友達、助けられてよかったな」

「皆のお陰だよ、ありがとうな」

「.....で、これからお前はどうするんだ?友達助けてさ、俺達のところにいる理由も意味も無くなっただろ」

 悠威は気怠げに身体を起こして、俺の目を見据えた。

「...とりあえず、紺鉄の街にいるつもり。皆と居たいから。それからはまだ決めてない。でも、波瑠や朔夜と居たいから」

「そうか」

 悠威はまたごろりと寝転がって、俺の方へ目を向けた。

「じゃあ、またよろしくだな。アパート、俺達の下の部屋、空いてる筈だから」

 俺が目を丸くしたのと、悠威がニヤリと笑うのはほぼ同時だった。

「うん、よろしく」

 俺の震えた声に、悠威はまたニヤリと笑った。


 それから寝台列車で寝て、次の日の朝には駅に辿り着いていた。

〈霜花〉に帰ると、店の中ではぐったりとした様子で孝介と叶真、蒼月と志保が寝ていた。

 チリンチリンという俺達が来た事を知らせる鈴の音が鳴って少ししてから、まず先に叶真が目を覚まして煉兎へ飛び付いた。その煉兎と叶真の声のうるささに志保が目を覚まして、孝介が最後に目を開ける。

「お帰り、皆」

 開口一番、孝介は俺達へそう言った。


 それから孝介達に土産話や波瑠と朔夜の紹介をして、アパートの大家さんの元へと歩いて行った。

 そこで俺達三人分の部屋を頼むと、二つ返事で承諾してくれ、一階の三部屋を借りられる事になった。

 本当は敷金や礼金が必要なのだが、そこは叶真が顔を利かせて、それらは免除される事になった。

 俺達三人は叶真へ礼を言った。

「いいのいいの!これからまた仲良くするんだから。どうしてもお礼したいなら、レンやんの気持ちが俺へ傾くように細工してくれたら嬉しいな!」

 叶真はニコッと素敵な笑顔でそう言って、煉兎は彼の腹部目掛けて綺麗なパンチを叩き込んだ。

 まぁ、そんなこんなで。俺達は住居を獲得した。

 俺達は少し分かれて、部屋の中を見る事にした。

 勿論、家具の一切置かれていない何も無い部屋で、あるのは机とキッチンと水回りのもの。

 初めて来る部屋だが、架深や悠威の部屋の風景と、やはり似通っている。

 しばらくキョロキョロと歩き回り、床に座って落ち着いてから、不意に、


 あぁ、帰って来たんだ。


 と思った。

 涙が滲み出そうになるのをグッと堪え、長く息を吐き出していると、コンコンと軽いノック音が聞こえてきた。

「はい?」

「私」

 そこには架深が立っていた。その手にはビニール袋が握られている。

「どうしたんだ?」

「引越し祝い」

 そう言って俺へビニール袋を突き出して来た。俺がそれを受け取ると、架深は「じゃ」と足早に俺の玄関の前から走って、逃げるように二階へ駆け上がっていった。

「.....なんだ?」

 俺は首を捻りつつ、ビニール袋の中に収められていた物へ手を伸ばす。


 一つは黒猫の絵。赤目の黒猫の絵だった。悠威に渡したのは毛繕いをしていた絵だったが、これは招き猫のように穏やかな笑みを浮かべている絵だった。

 そしてもう一つは、架深の紫の左目の絵だった。美しいその目は、俺が好きな彼女の絵だ。

「...あいつ」

 俺は思わずクスリと笑ってしまう。そして、何も無い部屋に飾る。


 さぁ、これからまた忙しくなる。

 朔夜と波瑠に妖百鬼のやり方や、彼ら専用の祓器ばつきなんかを作ってもらわないといけない。裏街でしか暮らしていなかったから、ちゃんとした人間らしい暮らし方を学ばないといけないな。

 でも、きっとそれは素晴らしい日々だ。


 俺達の平和で暖かな、仲間に支えられる日々が、ここから始まろうとしていた。

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Black CaT and MeDium 本田玲臨 @Leiri0514

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