ラムネ

本田玲臨

ラムネ

 ミンミン、ミンミンとうるさく蝉が鳴いている。ちりんちりちりん、と風鈴が風に揺れて音を鳴らす。

 駄菓子屋の軒下の木椅子に腰を下ろして、軽快な音を響かせてラムネ瓶の蓋を開ける。

「うわぁ……、初めて飲む」

 隣に座っている花蓮ちゃんは、透明な薄青色の瓶をまじまじと眺めてから、同じ音を立てて蓋を開ける。

 僕はふふっと小さく笑って、それからごくごくと飲んで見せる。彼女は僕と手元の瓶を見てから、同じく飲み始める。

 動く白い喉。胸の奥が何か、奇妙な変な気持ちが渦巻いた。何とも言えない、変な感じだ。気持ち悪いような、ふわふわと気持ち良いような。

 夏の陽射しで暑くなっているのか、頬がじわりと熱くなっているのが分かる。背中をつうっと汗が通った。

「………っぷはぁ、これ、美味しいねぇ!」

 にっと彼女が笑う。凄く幸せそうに。

 随分気に入った様子で、彼女はどんどん飲んでいく。僕も急いで、身体の中に溜まり始めた熱を逃がすように喉を動かした。

 全てを飲み干すとからん、と風鈴の音とは違う音色が瓶から響く。

 ビー玉の音。

 花蓮ちゃんの方からも同じ音が聞こえて来て、口を離してそれを手に転がした。

「……わぁ、綺麗」

 彼女はそれを陽射しに透かして観察する。僕も同じように陽に翳す。

 透けて、太腿に水色が映る。

「……これ、宝物にする」

 花蓮ちゃんはぎゅっと胸にビー玉を抱いて、それから照れ臭そうにはにかんだ。


 蝉の声。

 風鈴の音。

 ラムネの味。

 夏の匂い。

 微笑む笑顔。


 どくん、と胸が大きく高鳴ったのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラムネ 本田玲臨 @Leiri0514

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説