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深川 七草

第1話 この作品をクリックする

“おめでとうございます!!”

 日曜の朝、パソコンでメールをチェックする。

 マジ?!

 SNS経由で応募した懸賞に当たったことを理解した瞬間であった。

 それは、お年玉企画ということで、エントリーしただけで百万円が当たるというキャンペーンである。

 早起きは三文の徳とはよく言ったもんだぜ。

 

 ちょっと待てよ。

 商店街のガラガラでもポケットティッシューしかもらったことがない俺が、当たるだろうか? 商店街以上にハードルは高いよな。

 フィッシングメールじゃないだろうか?

 セキュリティーを確認する。

 OSも、ブラウザーのバーションも最新だし、これで引っかからないウイルスなら俺にはどうしよもない。


 クリック、クリックしてみる。


“おめでとうございます!!”

 ダブルチャンス賞・オリジナル待ち受け画像が当選しました!!


 ああ、あったような気がする。

 確か、百万円を5名様、ダブルチャンスでオリジナル待ち受け画像を10万名様にって。

 全員当たるだろ!

 しかもオリジナルって、誰も知らないキャラ絵なんていらねえんだよ!!

 俺は、削除をクリックした。


 メールソフトを閉じると、小説投稿サイトを開ける。

 俺はここで、小説を書いている……つもりだ。

 モチベーションだだ下がりだけど、たまには更新しないとな。

 休みは日曜しかない。

 あー。

 長編を書き始めたのはいいとしても更新をサボっていたので、自分でも中身の記憶がすでに曖昧である。

 読み直さないといけないかな。めんどくさいな。

 そんな時、イベントの文字を目にする。

 『小説短編大賞!!』

 これだ! これにしておこう。

 とりあえず何かやってる感あるというか、活動してる感あるし。

 しかも、賞金やグッズなどももらえる可能性ありか。

 早速、書き始めるのであった。


 ほぼ3000文字。まあこれで応募規定に足りてるし、長編の更新も一回1500文字ぐらいの俺からしたら上出来じゃない?

 などと自画自賛しながら小説投稿サイトを閉じ、充電が完了したスマホでゲームをすることにしたのであった。



 土曜の夜、パソコンでメールをチェックする。

 小説投稿サイトからメールが来てるな。

 あれから十三日、すっかり忘れていたけど小説短編大賞の件らしい。

 ひょっとして賞もらえた?

 俺はメールを、クリック、クリックする。


“評価・コメント”

『未完成なのが残念です』


 この一言だけ? 賞金やグッズないの?

 いやそれよりも、オチがないってこと? 主人公が死ぬまでの説明しなきゃダメなの?

 ありそうな理由を考えるが、この一言だけではわからない。

 クッソ! イライラするぜ。

 頭を掻き毟りながら、夜更かしは肌に悪いとはよく言ったもんだぜ、と思って寝ることにした。


 日曜になり納得ができない俺は、小説サイトにログインすると他の作品を見て回った。

 できがいい作品もあれば、悪い作品もある。俺の嗜好に合う作品もあれば合わない作品もある。

 わかんねーよ。

 そんな中、ひとつの作品をクリックした。


『私はただ、こうして文字を並べています。家ではパソコンで、学校のお昼休みはスマホで、ちょこちょこ書いています――――


 ふーん。若いよね、書き方も内容も。


――――小説家になって、お店に並んだ本をみんなに手にとってほしいと思っています』



 土曜の夜、パソコンでメールをチェックする。

 小説投稿サイトからメールが来てるな。

 あれから十三日と七日が過ぎたのに、また小説短編大賞の件だろうか?

 クリック、クリックする。


“評価・コメント”

『おめでとうございます。あなたの作品は、小説として完結しています』


 ああ? あれから投稿していないし、タイトルを見ればこの前賞に応募した作品なんですが。

 わけわからねえよ。

 俺は日曜を待たずにサイトにアクセスした。

 あれ? こんなところにボタンあったのか。

 そこをクリックする。


 1pv


 本となり、本屋で小説として売られていればみな小説だと思うだろう。

 しかしネット上に文字があるとき、それが小説だと言えるのはどんな時だろうか?


終わり

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