おめでとう?

別所高木

第1話 お誕生日 おめでとう!

「恵美子!お誕生日おめでとう!」

「やめてよ、藍。もう30歳よ、おめでとうなんて、言われて喜ぶ歳でもないわ。」

「そう言うと思って、今日はスペシャルな言葉を用意してきたの。」

藍はにっこりとして、恵美子の顔を覗き込んだ。


・・・・・・・


お誕生日・・・


子供の頃は、毎年ワクワクした。

まるで自分がレベルアップして強くなった様な何でもできる様になった気分になった。


毎年誕生日が楽しみだったが、10代の後半、従兄弟にもらった、昔のロールプレイングゲームでレベルアップの時に「おたんじょうびおめでとう」と表示されるゲームがあった。

はじめの若いうちは、「おたんじょうびおめでとう、体力が1あがった。精神力が2上がった。。。」と順調に成長していった。


ゲームを続けキャラクターが年老いてきたとき。

「おたんじょうびおめでとう。

体力が1さがった。

精神力が2さがった。

生命力が5さがった。

忍耐力が3さがった。

年齢が1あがった。」


・・・・・・これ、、、、全然ダメじゃん。。。。。


強烈なインパクトだった。

年齢を重ねると老いる。

常識として知っていることだが、自分が老いることを感じた瞬間だった。


そして、二十歳を過ぎ、結婚の話が身内から上がってくる様になった。

24歳の時には、もう今が売り頃とプレッシャーをかけられた。

25歳になると、売れ残りなどと言われるようになった。

みんな人をクリスマスケーキにたとえて酷いことを言ったものだ。


24歳も25歳も私が結婚したいと、考えもしなかった、年齢だ。

それを、勝手に他人が勝手なハードルを設けて、上から目線で人に言いたい放題で、、、、

人を勝手にケーキに例えるんじゃない!

私はケーキになりたいなんて思った事は一度もない!

人生で一度たりともだ!

私を食べ物に例えるなら、生きたフカヒレ尾頭付きだ!

うかつに近づいたら、ガブよ!

血だらけよ!


そう思いながらも、内心28歳くらいには結婚したいと思い始めたが、相手もなく。

と言って、特別に婚活をするわけでもなく、ズルズルと時間は過ぎ。

28歳位を超えた時には、30歳までという大目標を打ち立てた。


しかし、いつのまにか仕事に熱中する様になり、生活とは仕事というくらいの状況になり、今日は30歳の誕生日、目の前にいるのは高校生の頃からの友人、相川藍だ。


「あーぁ、藍と二人でお誕生日会か。。。。」

「なによー、そんなに残念そうに言わなくてもいいじゃない。なんだったら若いの何人か見繕ってきてもよかったのよ。」

「どうせ、高本先生のところの研究スタッフでしょ。。。。あそこのスタッフキャラ強すぎ!遠慮しとくわ。」


「へへへ、そう言うと思って、今日はこれを持ってきました。じゃーん!」

藍は一棹の羊羹を取り出した。

「お!甲子屋きのねやの羊羹!さすがお目が高い!」

「そう?喜んでくれてよかった、ありがとう!切り分けるわね!」

ズバっ!藍は、甲子屋の羊羹をど真ん中でぶった斬った。

「はい、今日は恵美子の誕生日だから特別に半分こ!」

「うわぁぁぁぁ!贅沢!薄いのが特徴の甲子屋の羊羹をかじって食べるなんて!

うちなんて、子供の頃羊羹がお皿の上で立たなくて、、、羊羹ってこう言う食べ物かと思ってた。」

「そうそう、うちも!よくお母さんに「甲子羊羹ハムより薄い♪」って歌ってたわ。」

「ハムより薄いー!最高ー!」


二人で、お茶を飲み、羊羹にかぶりつきながら、トークを続けていた。


「ところで、美恵子。30歳になった感想は?」

「うーん、どうかな、、、特に何も変わった感じないわね。」

「そうでしょー!私も独身で30歳になった時に感じたの。

それまで、24歳でどうだ、25歳でどうだって、いろいろハードルがあったけど、

30歳になった朝、目の前に10年間ハードルがない世界を感じたの!

今までのプレッシャーが嘘の様に思たわ。世界がブワーーーーーって広がった様な感じがして、、、、

きっと、今日、恵美子もそう感じるのかなって思って、楽しみにしていたの。」

「うん!そうだ!私は昨日と何も変わらない蘇我恵美子なのに、急にプレッシャーから解放された様な気がする!なんか、凄い自由な気分だ!」

藍は恵美子の顔を見つめた。

「ようこそ!恵美子!おめでとう!」


二人はしばらく30歳の自由に浸った。


「んで、恵美子、オチはないの?」

「え?なんで、誕生日を祝ってもらう方がオチを用意しないとダメなの?

藍は関西出身だからいつもオチを期待するけど、そんなネタはありません。」

「そっか、今日急に紹介したい人がいるって、言われたらどうしようって心配してたんだけど、いないのか、、、安心したわ、まぁおめでとう。」


藍は、恵美子にまだ脈がないと感じて安心した。


「ところで、藍はどうなの?」

「私もダメ、今の行動範囲では出会いはない!絶対ない!ちょっと活動範囲変えないとダメかもね。。。。」


恵美子も、藍に脈がないと感じて安心した。


藍と恵美子、二人の女子会は続いた。




おしまい

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