友達とはなんだろう?

新巻へもん

人それぞれ

 学校では割と空気感の強い俺だが、それでもクラスで普段話す相手が居ないわけじゃない。まあ、あまり愛想がいいわけじゃないし、いつも誰かと群れていなければ不安になるわけじゃないのでそれほど多くはない。また、いつも決まったメンバーで固まっているグループからは距離を置かれている。


 お気に入りの動画の話だとか、スマホゲームで何をドロップしただとか、今なら期間限定でちょっと昔の漫画が全巻無料で読めるとか。そう言った話をする相手はそれなりにいる。


 時には、誰が可愛いだとか、実は付き合っている相手がいるとかいないとか、そういう話もでた。幼馴染のミキは人気は高い。そんなミキと俺がごくフツーに親しく会話しているのを見て訝られたが、幼稚園から一緒で、という話をしたら、まあ顔なじみならということで落ち着いた。


 まあ、俺だって、クラスで2番目に可愛い桜田さんに対して、自然に振舞えるかと言えばそうじゃない。むしろ、久しぶりに再会して随分と大人っぽくなったというか、可愛くなったミキに対して挙動不審にならないのが自分でも不思議だったぐらいだ。中身がそれほど変わってなかったのと、その時点では見知った顔がいるという安心感の方が大きかったのかもしれない。


 1学期の間は、懐かしい幼馴染という関係に過ぎなかったのと、学校ではミキは薄く広く交友関係を築いていたこともあって、まあそういうこともあるかということで許容されていた。一部では、なんであんなモブキャラが、とは言われていたみたいではあるけれど。


 一変したのは、2学期になって、俺とミキがお付き合いするということが広まってからだ。それまで、俺と表面上は友達付き合いしていた数人が俺から離れて行った。その数人に言わせれば俺はズルいらしい。


 何がズルいのか良く分からなかった。うらやましいというのなら分かる。そりゃ、誰だって自分が好きな相手に告白してOKをもらえば嬉しいだろう。そうなりたいというのは分かる。それを一足先に手に入れたことに対して羨望の念を抱くのも自然だ。


 俺も、隣のクラスの川崎が学校一と言われる一つ上の先輩と付き合っているという話を聞いた時はうらやましいなと思った。ただ、川崎は容姿端麗、成績優秀なミスターパーフェクトなので当然と思った。容姿はともかく、野球部のレギュラーなのも成績が優秀なのも努力の結果だ。もう少し俺もカッコよければなとは思ったが、ズルいとは思わない。


 我が身を翻ってみると、色々な面で川崎には及ばない。そんな俺がミキと付き合っているのはやっぱりズルいのだろうか? でもなあ、俺も玉砕覚悟でアタックしたわけで、そういう行動もしなかった奴にズルいと言われてもな、と思っている。もちろん、口に出しては言わない。


 というわけで、俺とミキとのことを知った時に、俺に対して祝いの言葉を述べたのは二人だけだ。野島と石川の二人は、え? としばらく固まったもののそれぞれがいかにもなセリフを言った。


「うわ。マジか。お前、一生分の運を使っちゃったな」

「この世の不条理が辛い。くそ、俺にもどこかに可愛い幼馴染が落ちてねーかな」

 口にしたのはこんな感じだが、共に喜んでくれていることは分かった。


 友人の幸福を共に喜べる人こそ本当の友達なんだとどこかで読んだ覚えがある。それが正しい事ならば、俺には素晴らしいカノジョと二人の真の友人がいることになる。


 おめでとう


 自分には無い幸運を誰かが持っているときになかなか言えるセリフじゃない。でも、次は俺の番だ。野島と石川。俺のあごが外れるような凄い話を待ってるぜ。 

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