サヨナラ
風見☆渚
唯一の理解者
【結婚式を直前に控えた新婦】
今日は、私の新しい人生が始まる日。
そして、短かったけど今までの楽しい人生が終わる日。
私は今日、結婚します。
相手は、お父さんが決めた偉い人らしい。一応、恋人ごっこ遊びな関係がずっと続いていた。でも、まともに私を見てくれた事は一度もない。だって、お父さんの仕事を手伝っている人で、お父さんと一緒にいつも忙しそうにしている人だから。忙しいその人は、私の誕生日だけじゃなくクリスマスとかハロウィンはもちろん、色々な記念日だって一度も一緒にお祝いしたことがない。いつも私から誘うばかりで、その人から連絡が来ることはない。私が連絡しない時は、半年以上平気でなんにも連絡してこない。きっとお父さんと一緒で、愛人がたくさんいて忙しいんだと思う。
お父さんがおまえに合う人間はいないって、昔から言ってた。だから結婚する人も、お父さんが決めた人以外ダメだって言われた。友達がいなくて、いつも図書館で本ばかり読んでいる私。そんな私の話はつまらないって、皆が言う。少しだけ寂しいと思った事もあるけど、私は気にしなかった。
でも、あなたは違う。偶然図書館で出会ったあなたは、私の話をいっぱい聞いて、色々な事をいっぱい話してくれた。私の初めて出来た友達。
あなたと図書館で何度も会っているうちに、気づいたら友達以上に感じてた。でも私には結婚する相手が決まっている。この決定事項を変えることは、絶対出来ない。
でも、あなたといるととっても幸せな気持ちになれるの。付き合うとかそういう関係じゃなくてもかまわない。私に残された自由に使える時間は限られているけど、その全てをあなたと一緒に過ごしたい。本当のそう想ってるの。
あなたはどう想ってる?
あなたは私の事を好きって言ってくれないけれど、私の全てを受け入れてくれる大事な人。
会う度に、あなたと色々な事を話した。あなたと色々な場所へ出かけた。その全てが、私の思い出で想い出。それでもやっぱり、あなたとずっと一緒にいることは出来ないの。
出かける事が増えた私の事を知ったお父さんが、私の事を勝手に調べてた。あなたと旅行している途中にかかってきたお父さんからの電話。帰ったらすぐ式の準備をすると言って電話を切られてしまった。
これがあなたたと過ごす最後の海だと思ったら、涙が出そうになった。私は、夕日の眩しさで涙がこぼれ落ちそうになるのを必死で耐える事しか出来なかった。ずっと言えなかった。私は結婚すると言ってしまったら、あなたはどんな顔をするの?
今まで私の話をまっすぐに聞いてくれたあなた。でも、大事な事は言えなかった。
言いたいけど、言ってしまったら、折角流れないように我慢した涙がこぼれ落ちそうになってしまうから。
今日はあなたと最後のお別れの日。来てくれなくてもいいと思ってた。でも、もし良かったらでいいから、私の一番キレイなドレス姿をあなたに見せたかった。私の最後のわがままだから。優しいあなたは、きっと私のわがままも聞いてくれる。私のドレス姿を優しく見つめてくれるあなたの笑顔が、私の心に突き刺さった。
本当はあなたと一緒にいたかった。ずっと一緒にいたかった。弱い私は、そんな簡単な事も決められなかった。
式の最後、お別れにあなたは一言“ありがとう”と言ってくれた。ありがとうと言いたいのは私の方なのに。本当の最後なのに、私、あなたに『ありがとう』の一言が言えなかった。ただ、こぼれ落ちそうになる涙を必死に堪えて、あなたを笑顔で見送る事しか出来なかった。
私、ちゃんとキレイに笑えてる?
あなたに言いたくなかった最後の言葉。
“サヨナラ”
【結婚式で新婦を見送る男】
昨日までは、暗く響めいた空が太陽を覆い隠していた。そんな昨日の空が嘘のように、今日は雲一つない晴天が何処までも広がっている。
俺は今日、大事な人の結婚式に出席する。
俺の人生で、これほど気持ちの晴れない結婚式に出席するのは、きっと後にも先にもこの一度きりだろう。それほど大事な人の結婚式がもうすぐ始まる。
彼女との出会いは、高校卒業の1週間前だった。卒業までの暇な時間を持て余していた俺は、何も考えず図書館へ向かった。そこで、偶然同じ本を手に取った彼女と出会った。
本はもちろん、考え方や趣味趣向など色々と周りから変わっていると言われてきた俺だったが、初めて同じ趣味や考え方の女性と出会った。偶然というよりも、これは運命だと感じた。
それから俺と彼女は、その後も図書館で偶然出くわす奇跡のような出会いをくり返し、自然と恋人のような関係になっていった。
連絡先を交換した俺と彼女は、何度かデートのような外出をし、食事の後そのままお互いの体を何度も重ね合わせた。恋人同士のような関係が続いたが、お互いになんとなく付き合おうというタイミングがなかった。というよりも、その言葉を彼女が避けているように感じた。
彼女は俺の事をどう思っていたのだろうか。彼女に直接聞くことは出来なかった。俺自身、何故か彼女と付き合っているという認識もあまりなかった。
そんな彼女は、会う度にいつもどこか余所余所しいというか、時折遠くを見つめているように見えた。俺の話を聞いていないようすな時もあったが、それでも彼女はいつも笑顔で俺の横にいてくれた。
気を遣わず自然な存在として、心地よく一緒にいられる女性は初めてだった。俺もそれなりの年頃の時は、付き合っている彼女とする女性が数人はいた。しかし、こんなにも安心して一緒にいられる女性は彼女だけだった。
俺はこのまま彼女と結婚するのだろうかとも思っていたが、きっと彼女にはそんな気はなかったのだろう。何故なら、俺と出会う前から彼女には結婚する相手がすでに決まっていたからだ。
彼女は、あまり自分の事を話さなかった。俺も、そんな彼女から無理に自分の話をさせようとは思わなかった。よくよく考えてみれば、俺は彼女の誕生日すら知らない。クリスマスやハロウィンだけじゃなく、楽しい時間をたくさん過ごしてきたが誕生日だけは祝った事がない。誕生日の話になると、いつも彼女は話をはぐらかす。
それでも付き合って2年の間に色々な事があった。そして、一緒に色々な場所へ出かけた。色々な場所で彼女の色々な笑顔を見た。今では良い思い出でしかない。
最後の行った海辺の夕焼けを背に、うっすらを笑みをこぼした彼女の笑顔は今までと全く違う笑い方で、どこかぎこちない笑みを浮かべてひっこりを俺を見つめていた。夕日の眩しさに隠れてうまく見ることは出来なかったが、少しだけ涙を流した後のように見えた。
今日はそんな君の結婚式。友人として来てくれないかと言われた時は正直驚いた。そうか彼女には結婚相手がいたのか。俺はこれまで感じていた彼女の違和感に、素直に納得した。招待状を受け取った俺の顔は、もしかすると最後の夕日の眩しい海辺で見た君のぎこちない笑顔に似ていたのだろうか。
それでも君には幸せになって欲しいから、精一杯お祝いするよ。
別れの瞬間、俺は彼女にそっと一言“ありがとう”と囁いた。
彼女は涙を瞳いっぱいに溜めながら笑顔で俺を見送った。
最後に見せた君の笑顔は、抱きしめたくなるようなか細い笑みを浮かべていた。でも俺にとっては、今まで見たことのないほど、キレイな微笑みだった。
君には、本当の幸せを手にして欲しいと願っている。
俺は、精一杯の笑顔で君を送るよ。
『おめでとう。』
サヨナラ 風見☆渚 @kazami_nagisa
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