変態王子と結婚しました!

第1話 変態王子と結婚しました!

 純白のドレス。色とりどりの花々。豪華なお料理。隣には将来のパートナー。皆が私たちを祝福している。

 そんな誰もが憧れるような結婚式の中、不機嫌な人物が一人……それが、私。


「どうしたんだ?ココア。浮かない顔をして」

 そう言って私の顔を覗き込むのは、この国の王子。

「ルーク様……」

 この方に拉致されて、あれよあれよという間に結婚させられて。不機嫌にならない方がおかしい。……いや、ルーク様にアレが無ければ、女性達は泣いて喜ぶのかな?

 ルックス、性格、身分。申し分のない、特上級の相手だ。世間一般的に言えば。

「さぁ、風呂に入ろうか♡」

 そう言って一緒に入ろうとするので、抵抗する。

「なんだ。もう夫婦なのだから良いじゃないか。恥ずかしがり屋なハニーも可愛いがな。仕方ない。……脱いだパンツ一枚で手を打とう」

 ……そう。私が一番嫌なのは……王子が実は「変態」だったということ。

「何が仕方ないんですか。あげませんよ?」

「なら、ブラで」

「パンツもブラもあげません!」


「……はぁ」

 ゆっくりとお湯に浸かると、ここ数日の出来事が目まぐるしくて、夢のように思えた。なぜ、ルーク王子はここまで私を好いてくださるのだろう。田舎の、どこにでもいそうな町娘の私なんかを。


 お風呂から上がると、私がさっき脱いだワンピースをご満悦な様子で抱きしめて私のベッドに寝る王子の姿が。

「おかえり、マイハニー」

「なんでワンピースゲットしてるんですか!」

「……はぁ。ハニーはダメダメばかりだな。パンツもダメ、ブラもダメ。なら、残ったワンピースしかないじゃないか。……はぁ、ココアの匂い♡」

「なんですか、その理屈は!嗅がないでください!」

 ワンピースを取り返そうとベッドに歩み寄ると、ぐいっと腕を引かれる。ぽすん、と柔らかなベッドに横たえられ、王子は私の上に覆い被さる。

「待ちくたびれた。さぁ、始めようか♡」

 そう言って首筋に、ちゅ、ちゅ、とキスを落とす。

「式の間中、ココアが可愛すぎてムラムラしてたから。もう、限界だ」

「ちょ、やめ……やめてください!」

 ぐいっと胸を押し返す。

「明日も早いんですよね?ご自分のお部屋でゆっくりお休みください!」

 そう言って、彼を追い出した。


「ん……」

「起きたか。おはよう、私の愛しい人」

 ちゅっと頬にキスを落とす。さらり、と私の髪を撫でる左手。この場面だけ見れば「理想の王子様」なのだろう。……右手を除けば。

「はぁ……柔らかいなぁ♡」

 王子の右手は、私の胸を揉んでいた。

「朝っぱらから、やめてください!」

「昼や夜なら良いのか!」

 キラキラと輝く目。

「そういう意味じゃないです!こういうのは……お互いが好きになってからじゃないと……」

「なら、ココアが俺を好きになればいい!」

「なんでそうなるんですか!」

 ……はぁ、朝から疲れた。

「着替えるので出ていってください!」

「手伝うぞ?」

「結構です!」


「なんで王子はああなんですかね?」

 王子専属の執事さんに話しかけると、執事さんはふふ、っと笑って言った。

「ルーク様があんな風に甘えられるのを、初めて拝見しました。ココア様は特別なのでしょうね」

「特別、ですか……」


 ここに居たらダメになる。そう思ってこっそりお城を抜け出した。何故か今日はお城がザワついていて、警備が手薄になっていた。

 久しぶりに私の町に戻ろうかなと思い、ふと城下町の大画面テレビを見上げると「ルーク王子、体調不良で公務は取り止め」と文字が。


「え……?」

 昨日まで、あんなに元気だったのに。確かにちょっと抱きつかれた時にあついなと思ったけど。ポケットのスマホが震える。王子の執事さんからだ。

「今すぐお戻りください!王子がずっとうなされながら貴方のお名前を呼んでいて……。せめて少しだけでも会っていただけませんか?」

 ……戻ればセクハラの毎日。好きでもない相手と結婚だなんて、無理な話だったのよ、最初から。


 ……それでも。王子は超がつく変態だけど。夜中までお仕事して。それでもいつも笑っていて。これまでで一番くらい、国民に好かれた優しい王子だった。弱音を吐くのは私の前だけで、いつでも完璧な王子様を演じていた。その王子が、私に会いたがっている。


「……もう、仕方ないなぁ!」

 私は考えるより先にお城へと向かっていた。


「ココア様!」

 王子の自室。お医者さんも一通り処置が終わったみたいで、私と王子を残して皆退室した。

「……ん。ココア……ココア……行か、ないでくれ」

「もう。私はここにいますよ」

 近くの椅子に腰掛け、手をぎゅっと握る。

「ココ、ア?」

 うっすらと目を開ける。

「はい、ココアです」

「戻って、きて、くれたんだなぁ……」

 まるで子犬が飼い主が帰ってきてくれたのを喜ぶように無邪気に微笑む。

「王子は、なんで私なんですか?」

「……覚えてないか。それはな……」


 まだ私が幼かった頃。町外れで男の子が一人泣いている。綺麗な黒髪がサラリと揺れる。ターコイズブルーの澄んだ瞳が涙で濡れていた。

「どうしたの?」

 思わず声をかけた。

「ぼくは、国民の上に立つ自信が無くなったんだ。覚えることも、考えることも、たくさんで。亡くなった父上、母上のように、国民を幸せにできる立派な王族になりたいのに……」

 しゃくりあげながらも、懸命に話す男の子。私は言った。

「王族とか、政治とか。難しいことは分からないけれど。あなたはすでに立派な王子だと思うわ」

「……え?」

「『国民を幸せにしたい』って気持ち。それって王子として一番大切な気持ちだと思うの。それがあれば、あなたはきっと大丈夫よ。それにね?」

「それに?」

「国はみんなで作っていくものだから。王子様だけが頑張っても上手くいかないの。みんなが協力して、作っていくものだから」


「それから、君は俺の特別だ」

 王子が頬にそっと触れる。

「父上も母上もいなくなって。俺は立派な王子にならなきゃと、そう思って。でも上手くいかなくて。誰にも言えなくて、分かってもらえなくて」

 ターコイズブルーの瞳が愛おしげに私を見つめる。

「君が、君だけが。俺の気持ちを分かってくれた。励ましてくれた。あの日から。……好きだ、大好きだ、ココア」

 あの男の子、ルーク様だったんだ。こんな町外れに王子様がいるはずないって思ってたから。似てるなとは思ったけど、まさか本人だったなんて。

「無理やり連れてきて、結婚して。悪かったと思ってる。けど、俺にはお前だけなんだ。……俺を好きになってくれないか?」

 そう言って、触れるだけの口付けをされる。彼はいつも強引で、ワガママで、変態だ。けれど……。

「ど、努力……して、みます」

「ほ、本当か!?」

 ガバッと抱きつかれる。私が言った一言だけで、ぱぁぁっと顔を輝かせて。本当に、犬みたいに単純で可愛らしい人だ。

「じゃあ、さっそく……」

 ゴソゴソと私の服をさぐる。

「なにが『さっそく』ですか!何しようとしてるんですか!」

「何って……『ナニ』だな。ハニーが珍しくデレるのが悪い。さぁ愛を深めようなぁ♡」

 ああ、もうこの人は。

「病人は大人しくしてください!」

「元気になったら良いのか!?」

「そういう意味じゃありません!」


 彼は、誰もが憧れるようなプリンスで。ルックス、性格、身分申し分なしの人で。……でも、ちょっぴり変態なのが残念な、そんな……私の王子様です。















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