3周年を迎えられなかった夜

turtle

第1話

 こんなはずじゃなかった。

結婚3周年。夫は指輪を買ってくる。

私はケーキを焼いて、1才の息子と共にアレルギーテスト済みのケーキを食べる。 


 なのに、、、。

私は一番嫌いな奴のマンションのリビングで冷えたコンビニのお結びを食べている。

一番嫌いな奴。それは、、、私の妹。


 妹は昔から出来が良く、世間の誰もが知っている大学を出てた。それに比べて私は名前を聞いてもピンとこない短大。だから私は妹と比べられないように中堅理科大学の一人っ子の夫と結婚した。


 息子の寝かしつけが終わると、妹に呟く。

「貴方はいいわよ出来が良くて。独立してマンションなんて買えるんだもん。私はどうせ、、、。」

 妹は私を一瞥し、

「お姉ちゃん、なんで貴方の夫は別れたいって言ったの?」

 私は息子に妹のブランケットを掛けて答える。

「息子にかまいすぎたからじゃない?でも私だって大変だったし。息子は未熟児で、お母さんももういないから私が何から何まで、、。」

 妹は無表情で答える。

「それもあるかもね。」

 妹は静かに翌朝のごみの分別を始める。

「なによその他人事みたいな言い方。貴方のせいよ、貴方がいるから、、、。」

 妹は手を止めてため息をつく。

「また始まった。別にご主人はお姉ちゃんと別れて私と結婚するって言ったわけじゃないでしょう。」

「、、、でもなんで私より妹の方が出来がのって言われたわ!」

 プラスチックとごみの分別に取り掛かりつつ妹は答える。

「そう、それじゃ、なんでお父さんよりご主人の会社の方が小さいのって言い返してあげようか?。」

 私は黙って妹を睨む。

「そういうやっかみやめてよ。こっちだってお姉ちゃんのせいで大学院行けなかったんだから。」

 確かに私は私立でお金がかかった。母親の介護も押し付けた。だっていい大学入っているんだし、就職できるんだからいいじゃない。

「いつものだんまりね。そうやってご主人にも接していたんでしょう?。お姉ちゃんは甘えているつもりだったのかもね。そしたら後からご褒美がくるから。昔からそうだった。それはご褒美じゃなくて、脅迫よ。ムッとして、要求が通るまで不貞腐れて。」

 私の脳裏に夫の言葉が蘇る。

「もういい加減にしてくれ。養育費も慰謝料も払う、そのむくれ顔はうんざりだ。」

 ふと我に返ると、妹はゴミ分別の手を止めて、ネットで検索していた。

「ほら、最近シングルマザーを応援する施設も出来ているわよ。ここなんて一時金も支払われるし。いい加減に自立したら?」

 涙がぼろぼろと溢れてきた。息子をぬらさないように自分のハンカチを取り出そうとしたら妹がタオルを持ってきて傍に座った。

「お姉ちゃんたち夫婦はお互い愛し合ってなかったのよ。ご主人は一見言いなりになる小奇麗なおもちゃが欲しかっただけ。モテなさそうだから女性というものを知らなかったのね。そこがお姉ちゃんの目の付け所だったのだけど。お姉ちゃんはお姉ちゃんで、わがままを聞いてくれる人が欲しかっただけでしょ。」

 私は妹からタオルをひったくって目を拭った。妹はキッチンに戻った。

「貴方たちはお互いをありのままで認めてなかった。もっともありのままの貴方たちの姿なんて目も当てられないけどね。」

 身もふたもないセリフだ。そういう貴方のせいで私は、という心中を察したのか

「お姉ちゃんまた人のせいにして。私が居ようと居まいとお姉ちゃんの成績が良くなったわけじゃないわ。とにかく母はもう死んで、父は病院なんだから余計な心配をかけないで上げてよ。それぐらいの気遣いもできないの?だから離婚されるわけだ。」

 私はきっと顔を挙げた。

「お父さんにはお花も送ったわ。」

「それは周囲からどう見られるかを気にしてでしょう。お父さんの好きな花知っていた?お父さんお花なんて興味なかった。それなのに送ったわけね。お母さんが好んでいたチューリップを送ってれば見直したけど、、。」

 私は手がわなわなと震える。 

「そういうあんたは何を送ったのよ。」

 妹は頬ずえをついて答える。

「磁石で止められる碁盤。病室でも楽しめるように。」


 翌朝、妹は鍵を開けたまま仕事に行った。メモにカギは新聞受けに入れておくよう書き残していた。居座ってやろうと開き直ると、息子が泣き始めた。慌ててキャリーバックからおしめと粉ミルクを取り出した。旦那の言葉と妹の暴言、息子の鳴き声が頭の中でこだまする。


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3周年を迎えられなかった夜 turtle @kameko1

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