「終幕3」


「私は間違っていたのだろうか。」


 焼け落ちた城の中、もう座る力すら無い兄は倒れたままぽつりと呟いた。


「お前と私と、そして母上が愛した美しかった佐保は、もう消えてしまったよ。」


 すすけた頬を、涙が伝っている。


「私が、消してしまった。

 これが時代の流れなのだと言えばその一言で済んでしまう。

 だが、本当にこれで良かったのだろうか。」


 私は首を縦に振った。


「母上は、きっと全てを御存じでした。

 そしてそれをと、申されたのです。」


 私は、愛しい兄を抱きしめた。

 まるで小さな子供をあやすように。

 兄は今、あの野山を共に駆けまわったころの幼い子供になっていた。

 そしてこれから炎に焼かれることで、還る。

 その身には重すぎる役目を、今、ようやく果たし終えるのだ。


「私達も佐保の土になりましょう。

 きっと私達の骸に、木が生え、美しい桜が咲いて、魂を清めてくれるでしょう。

 春の山、佐保の自慢の桜が。

 そしてきっとまた春が訪れます。」


 兄は私の腕の中で小さく笑った。

 子どもらしい無邪気な笑顔だった。


「千年も、二千年も、ずっと咲いてほしい。

 この赤い色を幾年月にもかけて咲きつくすよう、優しい色で。

 この佐保の美しさをいつまでも伝えられるように。」


 私も頷く。

 それが佐保を守らんとしたばかりに佐保を滅ぼした私達の、最期の願いだ。





「桜だ。」





 兄が顔を明るくする。


「見て御覧、桜だ。

 桜が咲いているよ、狭穂姫。」


 兄の言葉に辺りを見回すと、不思議なことに赤い炎が樹の幹に見えた。

 その樹は私達を抱きしめる。

 全く恐ろしくはない。


(炎は無情で、そして真に慈悲深い。)


 空からは白い花びらが降り注いでいる。

 満開の桜に包まれ、私達は、還る。


「美しいな。」


 私達は悲しみを抱え、桜になろう。

 この佐保の、そしてこの聖樹の一部になって、里を永遠に守ろう。


「本当に・・・美しい。」









 そしてこの土地で、彼を永遠に愛そう。







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