第45話 【蘇生】
「マリー、これは誤解よ。ミーシャも何か誤解したのよ」
「そ、そうです、マリー様。申し訳ございません。クラリス様の身に危険が迫っているのかと勘違いしたのです」
「ほらマリー、ミーシャもこう言っているわ!聞いてマリー。違うの、誤解なのよ!」
言い訳を重ねる二人をマリーは無視してリビングに行くと、首と手足のないハリス博士の死体に【蘇生】を打つ。マリーが思いつきで作ったこの魔法は首がなくても生き返る。魔力でぼんやりと人の形ができあがり、マリーがさらに魔力を流し込むとハリス博士の顔が出来上がるのだった。小さな雷撃を心臓に打ち込むと、ハリス博士も咳き込みながら頭を起こし、気道に詰まった血を口から吐き出した。
寝室からリビングを覗いていたジャック警視は首を切断された死体が生き返るという神のような所業を目撃していた。彼の目にはマリーが女神に写っていた。人間が死者を生き返らせることなどできるわけがない。ジャック警視はアマン神の信徒であったが、形式だけの信徒でろくに信心など持っていなかった。だが、いま彼の胸に駆け巡るこの熱い思いはなんだろうか。俺はマリー様についていく。彼はそう強く決心をした。
その頃には初めに復活したチルトンたち三人の意識がはっきりとし、マリーへの熱い思いを胸に秘めたジャック警視たちによる聴き取り調査が始まっていた。生き返った三人は揃ってクラリスを食人鬼だと主張した。全員が生きたまま肉を削いで食べられたらしい。最後はミーシャに斬られるか出血し過ぎで意識を失ったのだった。
ジャック警視はクラリスとミーシャへの尋問を開始する。
マリーの【エロンの教訓】は解除せず床に並べられた二人は諦めたようにすべてを自白した。アマン神からの神託のことも包み隠さず話し、ジャック警視のアマン神への信仰心は完全に消え去った。
だが、四人の連続殺人事件は、被害者が全員生き返ってしまったせいで、警察としては事件として扱えなくなっていた。牢に入っていたハルとマラコイも出てきている。といっても通常の犯罪者扱いはされず、柔らかいベッドに豪華な食事の生活で過ごしていたので特に疲れてもいないのだった。
「ちょっと、あんた。また無茶苦茶なことやったんでしょ!」
ハルはマリーを見つけるとほっぺたを摘んで引っ張っている。
「そんなことない。ちゃんと解決したし。ね?ね?」
「死体を生き返らせるってあんた無茶以外のなんだってのよ!だいたいどうやったら死人が生き返るのよ!?」
「え?こうね、さっさと生き返らんかーーーいって魔力を込めたらできるよ?」
「できねーよ!!!!!」
ハルのとにかく全力でつっこんだ。
マリーは誇らしい気持ちでいっぱいだった。大人たちが解決できなかった連続殺人事件を自分が解決したのだから。だが親友だと思っていたクラリスが真犯人だったなんて信じたくなかった。友情は一生続くと信じていたのに。だが、そんな困難を乗り切り、マリーは解決したのだ。さあ、褒めて!マリーは周りを見渡した。
床にはクラリスとミーシャが転がっている。二人は必死で何かを叫んでいるがマリーには聞こえなかった。
そして自分を褒めてくれるはずの大人たちが何故か全員、床にひれ伏している。さっきまで忙しそうに歩き回っていた人たちがなぜか自分に頭を下げているのだ。横に立っているハルとマラコイと顔を見合わせるが二人とも状況がわからず首を振っている。
先頭で土下座をするハリス博士が口を開く。
「マリー様。魔導の極みを身をもって体験させていただきました。先程の【蘇生】魔法ですかな、ぜひ我々にご教示くださいませ!!!」
その少し後ろで土下座しているジャック警視も口を開く。
「まさに神の御業を拝見いたしました。私をぜひマリー様のお側にぜひお仕えさせて下さい!」
すると床にひれ伏している全員が土下座をしながら叫ぶように言った。
「マリー様!お側に仕えさせてください!」
マリーは究極に困っていた。なんだこの状況は。死体から復活させたチルトン先生や童貞二人も土下座している。いったいなにがどうなって皆んな土下座しているのか分からなかった。
「と、とりあえず立とうよ?」
マリーがそう声をかけると、ハリス博士の目が輝く。
「では私にも【蘇生】魔法を教えて頂けますか!」
「えっ?い、いいよ?」
ハリス博士は笑顔で立ち上がる。
「ありがとうございます。私も魔法学院の長として死ぬ気で習得させていただきます!そして習得できた暁にはマリー様の偉大さを全世界に知らしめるのです!!」
そう博士は宣言し、ジャック警視と力強い握手をかわす。
後に、ハリス博士とジャック警視はマリーを教祖とした新しい宗教を作った。
【真・現人神マリー教団】の誕生であった。ハリス博士とジャック警視を筆頭に、この場にいた22名の男たちが信徒としてスタートしたのだった。そこにはハルとマラコイも面白がって教団に入信したが、マリーの兄姉ということで幹部としてちやほやされることになった。
それほどまでにマリーが放った【蘇生】魔法はすごかったのだ。
マリーは仕事も家族も放り出して自分の側にいるという男たちをどうにか説得し、日常生活に戻らせた。かわりに週に一度は彼らの集会に顔を出し、【蘇生】魔法を取得しようとする男たちの練習に付き合わされたのだった。
クラリスとミーシャの二人は被害者達が告訴しなかったため特に罪には問われなかった。生き返った被害者たちはマリーに夢中だったからだ。だが、醜聞を恐れた王宮は二人を放置せず、クラリスは北の果ての国へ留学へ出され、ミーシャは戸籍を奪われ国を追放された。
これにてジャクソン魔法学院の連続失踪事件は幕を降ろしたのだった。
**
入学から半年ほど経ち、ほどほどに勉強しながら充実した学生生活を送っているマリーのもとに、二人の男がやってきた。
【バラド・アジャナ】から来たその男たちは、【スイス国】の国境を魔法で破って忍び込んだ密入国者だった。厚手のコートを着込んだ短髪の若い男は【アーサー・バラド・アジャナ】で、もう一人の男は白い毛皮の帽子に白い毛皮のコートを羽織った黒い肌の男は【堕天使・コカエル】であった。
「マリー?おい、マリー?いるか?」
ドアがノックされ、マリーは目を覚ました。夕食後に勉強しながら机で眠ってしまっていたのだ。聞き慣れた声につられ、警戒せずドアを開けると目の前に父が立っていた。
「パパ?なにしてんの?」
「ちょっと仕事でな、中に入っていいか?」
「え?コカエルじゃん、久しぶり」
「おお、久しぶりだな。何やらアマンを怒らせたらしいな」
「それは私のせいじゃないし!」
久しぶりに顔を見た父はまったく変わっておらず、コカエルは白いド派手な服装になっていた。黒い肌に白い毛皮が映えて、なかなか格好良かった。
二人を部屋に入れてやり、ソファに座らせるとお茶を用意してあげる。
「で、何しに来たのよパパ?」
そう、アーサーとコカエルがコンビを組んで、いったい何を企んでいるのだろうか。
底辺勇者のダンジョン攻略〜奴隷生まれの異世界人生はベリーハード〜 あれ東 @hikarinokuni
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