三回生 最底辺 タバコと春

ユラカモマ

三回生 最底辺 タバコと春

 今日の麻雀マージャンできなくなったわ、ごめん。握っていたスマホに着た通知を見て和輝かずきはベランダに出た。残り数本のタバコを箱から一本抜き火をつけくわえる。しかし久々のタバコにげほっ、とむせて和輝はいったん口から離す。タバコは和輝には辛くて重いものだった。しかし気分がささくれたときにはかえってそれが心地よかった。それに吸うのは一人のときなのでむせるのも別に気にならない。

(どいつもこいつも就活しやがって。)

 和輝は今日久々に大学の友人たちと麻雀をする予定だった。だが、卓を持っている家の主が es書くのが間に合わないとドタキャンしてきたのだ。今は春休みだと言え就活生は忙しいさなかである。それは仕方ないのだが。和輝はもう一度タバコをくわえた。今度はむせることなく少し薄くなった煙を肺に入れる。まだ重い空気が肺をおかして和輝は自嘲気味に笑った。

(俺もうまくいってりゃ今頃なあ。)

 和輝は就活をしていない。単位が足らずに来年も三回生をやることになっているからだ。だからこうして周りが就活がどうのと言っているのを聞くとうっかり蹴り倒したくなる。けれどそれはできないので代わりにこうしてタバコを吸って鬱憤をまぎらわせているのだ。

 和輝は別に不真面目な学生ではない。それに地元の高校ではそこそこ優秀な成績で国公立に並みの成績で入学できる程度の頭はあった。だから現状は和輝にとって不本意なものでありほんの三年前、夢と希望がいっぱいだったころには予想もしていなかったことであった。おかげで留年が決まってから半年ほどショックで学校に行けておらず食べるのも億劫なことがしばしばあった。今ではだいぶ落ち着いてきており来学期からは学校に行く予定だが就活という単語を聞くとやっぱり心がくさくさする。おかげでニュースも落ち着いて見れやしない。

(だいたいesってなんだよ。履歴書って言えよ。知らねーよ。就活してないんだから。)

 ぶつぶつとひとりごちるとタバコに歯形がつく。それを見ると昔鉛筆をかじっていたことを思い出す。噛み癖自体は変わっていないがだいぶくだらない大人になったものだ。

 そう、大人。和輝は今21歳である。大学に入って一人暮らしを始めたときはまだ18歳で去年成人式をしたときは20歳でそれから一年経って21歳だ。だが一人暮らしをしていても学生であり稼ぎもない現在、大人であるという自覚は薄い。ただろくでもない方に成長はした。酒やタバコも覚えたし麻雀打てるようになったし徹夜でカラオケもやってみた。そんなことしてるから留年するんだろうと思いつつもそんな馬鹿をやるのは死ぬほど楽しかったのでやらなければよかったとは思えない。

(あのころに帰りてえなあ。)

 同級生や先輩と遊び呆けていたのは一年以上前になる。この春先輩は卒業していったし来学期からも同級生は就活をする。でも自分は去年と変わらず授業を受けるだけだ。去年落とした授業を一人で受けるのは楽ではないし楽しくもない。でもいい加減くすぶっていてもしょうがない。

(春なのにこんな鬱々と・・・。来年はもっと明るくいけるといいんだが。)

 和輝は火の消えたタバコを口から取って灰皿に捨てた。箱に残ったタバコをどうするかと迷うが結局もともと置いていた場所に戻す。どうせまたそのうち吸いたくなるだろう。

 三月で三年目が終わって四月からは二回目の三回生が始まる。まったくめでたくないので来年はどうか祝えるように。


       三回生 最底辺 タバコと春

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三回生 最底辺 タバコと春 ユラカモマ @yura8812

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ