23. 戦術の大基本『ランチェスターの法則』

 ランチェスターの法則とは、『兵力2000の軍と、兵力1000の軍が戦ったら、どっちが勝って、どのくらいの損害が出るの?』

 というシンプルな疑問に解を与えてくれる、第1次世界大戦中に導かれた法則です。


 兵力が大きい(この場合2000の軍)方が勝つということは、誰にでも分かるかと思いますが、損害程度についてはこの法則で丸裸にされました。


 まず、ランチェスターの法則では、分析する状況を大きく2つに分けます。


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●ランチェスターの1次法則(近接戦の法則)


 刀と刀で斬り合っていた時代を想定した法則です。

 1人1人の兵力を互角とし、Aの軍の方が兵力を大きいとした場合、


 Aの兵力 - Bの兵力 = Aの残存兵力


 となります。

 【例】Aの軍が50人、Bの軍が30人とした場合、


 50 - 30 = 残存兵力

 20 = 残存兵力


 となり、B軍が殲滅され、A軍のうち20人が生き残ることになります。


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●ランチェスターの2次法則(遠距離戦の法則)


 しかし、銃のような飛び道具が主体である近代となると、状況は一変します。

 1次法則のような接近戦だと、一騎打ちが原則。

 また、【味方は10人 vs 敵は1人】というような場面においても、相手の1人を直接、取り囲めるのはせいぜい、2・3人程度。

 残りの7~8人の味方は、遠くから何も手出しをすることができませんでした。


 しかし、飛び道具が主体となった2次法則は、話が別です。

 遠くからも、林の中、岩陰から、頭上から、空間の広さを利用してあらゆる距離・方向から、敵を集中的に狙い撃つことができます。

 よって、1次法則より兵力差が大きく影響することになり、式で表すと、


 Aの兵力の二乗 - Bの兵力の二乗 = Aの残存兵力の二乗


 となります。

 【例】Aの軍が50人、Bの軍が30人とした場合、


 50×50 ― 30×30 = 残存兵力の二乗

 2500 ― 900 = 残存兵力の二乗

 1600 = 残存兵力の二乗

 40 = 残存兵力


 ということで、2次法則だとA軍の残存兵力は40人。

 1次法則では、20人しか残らなかったわけですから、その差は歴然です。


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 フィクション上の戦いの描写で、少数な軍のリーダーが「相手の懐に飛び込むんだ」「乱戦に持ち込むんだ」などとよく発言しますよね。ランチェスターの法則に当てはめれば、その意図は明らか。


 兵数差が影響しやすい2次法則(飛び道具戦)ではなく、影響しにくい1次法則(近接線)の状況に持ち込もうとしているわけです。


 あるいは、接近して飛び道具を封じようとしているとも解釈できますが、これが成功するかは飛び道具の性質によるでしょう。

 以前、『15. マルタ包囲戦と火縄銃』の回でも触れましたが、


https://kakuyomu.jp/works/1177354054888998169/episodes/1177354054893395967


 弾込めの時間稼ぎをしてくれる味方(槍隊など)が守ってくれさえすれば、鎧を貫通する火縄銃は接近戦でも有効な戦力となります。

 飛び道具だからといって、近づけば無効化できるとは限らないわけですから、「物語中で戦術に長けた将軍を描く」際には、注意が必要ですね。


 以上、戦術論の核となる『ランチェスターの法則』のご紹介でした。(※1)

 第2次世界大戦の空中戦(戦闘機に乗って3次元で移動でき、武器は機関銃といった飛び道具)でも、この2次法則はよく当てはまったとか。


 対して、もし自軍が劣勢ならば――開けた場所ではなく、敵が大戦力を展開しづらい、狭い空間を選んで戦いに及んだ方が賢明でしょう。

 これもまた、フィクションの戦闘場面でよく発せられる「相手を狭い場所に引きずり込むんだ」というセリフの根拠といえるでしょうね。(※2)



(※1)

 特に2次法則では数の多さが戦果に圧倒的に影響することを踏まえ、最近ではビジネス戦略にもランチェスターの法則が応用されているようですが、本題ではないので今回は触れません。


(※2)

 俗にいう「敵に遊兵を作らせる」――戦いに参加できない兵を多く生み出す、戦術意図があります。

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