22. 報酬の与え方の基本を学ぶ 完結編

 さてここまで、特に前編では、


『1.定間隔スケジュール(一定時間後に報酬ゲット)』

『2.変間隔スケジュール(ランダム時間後に報酬ゲット)』。

『3.定比率スケジュール(一定回数で報酬ゲット)』

『4.変比率スケジュール(ランダム回数で報酬ゲット)』


 といった、4つの報酬の与え方(強化スケジュール)の長所と短所。

 また、艦これなどをモチーフに、実際の活用の仕方を見てきました。


 ただ、「結局、どう取り込めばいいんだってばよ!」と、思われている方も多いでしょう。

 大成功しているゲーム作品のシステムを観察してみるに、『違う報酬の与え方を適確にミックスする』というのが、一つの答えであるように思います。


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●ドラゴンクエストのようなRPGの場合


 例えば、現役かつ不朽の国産RPG、ドラゴンクエストの場合。

 先に述べた通り、【レベルアップするのに必要な経験値を明示する】というのは、『1.定間隔スケジュール』や『3.定比率スケジュール』の発想です。


 登場する敵は乱数要素が入るため、レベルアップにかかる時間や、戦闘回数は個人差があります。

 でも、あるいはだからこそ、【経験値がこれだけたまったら、必ずレベルアップのご褒美があるよ】と不動の目標を提示するのが、大事。

 モチベーションの低い初心者にも、小さな目標を積み重ねさせることで、ゲームに引き留めることに成功しています。


 その一方で、モンスター【メタルスライム】といった、『4.変比率スケジュール(ランダム回数で報酬ゲット)』の塊のようなギミックもあります。

 メタルスライムは逃げ足が速く、稀にしか倒せない。でも、倒せれば膨大な経験値が獲得できる。まさに、ギャンブルや、くじ引きの大当たりを彷彿とさせる――脳内麻薬が出まくるような、喜び、射幸性に富んだ仕組みとなっています。


 このようにドラゴンクエストをはじめとするRPGは、複数の報酬の与え方をミックス。初心者をゲームに繋ぎ留めつつも、ハマる戦闘システムを実現しています。


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●ソーシャルゲーム(ガチャあり)の場合


 また、ゲーム内ガチャを採用したソーシャルゲームも、複数の報酬の与え方を採用しています。


 毎日、アクセスすることで貰えるログインボーナスは、『1.定間隔スケジュール』。

 コツコツ達成できる小さな目標を与えることで、ハマりはしないものの、モチベーションの低いユーザーにも、ゲームに接続する動機を与えています。


 一方、ガチャは、『4.変比率スケジュール』に課金要素を繋げている――どっぷりとハマり、当たれば射幸心を与える(悪く言えば依存性の高い)究極の仕組みです。


 その他のゲーム要素は作品によって違いますが、おおむね自動で戦ってくれるオートバトルが実装されていることが多いようです。

 ゲームに接続した後、放置していれば待ち時間後に報酬が貰えると考えれば、『1.定間隔スケジュール』にあたるといえます。


 つまり、ガチャの部分だけは『4.変比率スケジュール』と課金を用いた、強力な報酬の与え方をしていますが、それ以外はおだやかで効果の低いものに抑えている。

 さすがに、常にハマる過激な報酬の与え方は、心臓に悪いということでしょうか。

 目玉のガチャを引くシーンに特化し、あとは緩急の緩にあたるゆるい進行なのが、ソーシャルゲームの一般像であるといえそうです。


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●艦隊これくしょんの場合


 ただし、前編でも触れた通り、同じソーシャルゲームでも『艦これ』は仕組みが異なります。


 課金要素と切り離したことで、ガチャにあたる部分の『4.変比率スケジュール』の強さが縮小。

 その一方でゲームの戦闘部分では、オートバトルながらハラハラドキドキする乱数要素とゲーム性と強めることで、『4.変比率スケジュール』の要素を高めている。プレイを継続する動機の強化を行っています。


 ゲームに熱中させる報酬の与え方――『4.変比率スケジュール』の総量は、他のソーシャルゲームと大差ないものの、与える箇所が、ガチャ→戦闘にシフトしているのが、艦これの特徴です。


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 以上、ゲーム作品における、代表的な3つのパターンを見てきました。

 やはり、複数の報酬の与え方を組み合わせるのが重要そうです。

 もし、1つの方法に偏った場合、


・『1.定間隔スケジュール(一定時間後に報酬ゲット)』『2.変間隔スケジュール(ランダム時間後に報酬ゲット)』だけだと、変化がなく退屈。


・『4.変比率スケジュール(ランダム回数で報酬ゲット)』だけに偏ると、心臓に悪い。


 という風な感じに。

 そもそも『4.変比率スケジュール』だけのゲームはおそらく、運ゲーと呼ばれ忌避される種のものにあたるでしょう。(※1)


 新しいゲームシステムを考える時などは、上の成功例を基準にしつつ、【『4.変比率スケジュール』をはじめとする報酬を、どこからどこに移動させるか】といった視点で調整すると、バランスが取りやすいのではないかと思います。



(※1) 運ゲー

 プレイヤーのテクニックや努力とは関係なく、運で勝敗が決まるようなゲームのこと。面白くないゲームの条件の1つとして数えられることが多い。

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