21. 報酬の与え方の基本を学ぶ 延長戦
前回は、人をやる気にさせる『報酬の与え方』の基礎をご紹介しました。
報酬を用いるメリット。そして、依存についてはもう触れましたが、実はもう1つ見逃せない問題があります。報酬を与えたことによって、【人のやる気を奪う】マイナスのケースもあるということです。
たとえば、こんな話。
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ある幼稚園で、子供たちが楽しそうにお絵かきをしていました。
お絵かきは脳をやわらかくするし、指の巧緻性を高める良いトレーニング。ということで、もっと子供たちをやる気にさせるために、幼稚園の先生は絵を描いた子にご褒美(お手製のメダル)をあげることにしました。
子供たちは大喜びで、さらにお絵かきに熱中。でもその後しばらくしてから、父兄から『子供たちを物で釣るのは良くない』というツッコミが入り、ご褒美をやめにしました。
すると、なんてことでしょう。あんなに楽しそうに絵を描いていた子供たちが全員、『何も貰えないのならつまらない』と、絵を描くのを止めてしまったのです。
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楽しむために絵を描いていたはずが、いつの間にか、子供たちの心の中でご褒美をもらうためにという目的にすり替わってしまった。
ご褒美なければ、何もしない子供になってしまった。
まさに、報酬を与えたことが逆効果になった――という残念案件ですが、この現象は動機づけに、『内発的』と『外発的』の2つあることで説明がつきます。
他人が誰かに報酬を与えてやる気を引き出すことを、『外発的動機づけ』といいます。
自分以外の人に、挑戦する理由を与えてもらっているからこう名付けられたわけですが、この『外発的動機づけ』は、人間が元々もっているモチベーション――成長したいという積極性・意欲を損なわせる場合があることがわかっています。
『外発的動機づけは』、人が生まれながら持っている『内発的動機づけ』を削いでしまうのです。これを、アンダーマイニング効果といいます。
やる気を上げるはずが、逆効果では意味がありません。
このような過ちを犯さないためには、報酬の与え方を工夫する必要があります。
まず、報酬は金品だけでなく、言葉や感情でも訴えた方が好ましいとされます。(※1)
物を与えると、物を貰うこと自体が目的となってしまうわけで。
けれど、やりがいや、達成感があればある程度、動機づけできるはず――という道理です。(やりがい搾取になってはいけないけど)
私は数年間、ゲームのディレクターを担当していましたが、その業務の中では、『開発スタッフが提案してくれた10個のアイデアのうち、9個を没にしなければならない』というような機会が少なくない頻度で訪れました。
アイデアを没にするのはやむを得ないにしても、ただそれを告げただけでは、相手は腐ってしまい、やる気と信頼を大きく削いでしまうことでしょう。
だから、ちゃんと感謝の言葉を伝え、10個もアイデアを出してくれた情熱も褒める。
そもそも、金銭的な報酬を毎回あげられるような蓄えもありません。
そのような場合、感謝の言葉を送ったり、才能を褒める。才能が難しければ技術を褒める。それも難しければ努力や熱意を褒める。というコミュニケーションが求められます。(※2)
もう1つ、相手のやる気を奪わないためには、報酬の与える【頻度】も重要です。
報酬を与えすぎて、報酬を貰うのが当然になったら、それもまた報酬が無ければ何もしない人間を生んでしまうものですから。
そこで、モチベーションが低い人、落ち込んでいる人、自信がない人には、小さな成功でもいいので、とにかく高頻度で積極的に褒める=報酬を与えます。
そうして成功体験を重ねて、相手が『自己肯定感』『やる気=内発的動機づけ』を養ってきたようであれば、少しずつ報酬を与える頻度を落としていくのです。(※3)
ドラゴンクエストなどのRPGでは、ゲーム序盤であるほど簡単にレベルアップができるように調整されています。これも、同じ理屈で、最初に小さな目標をいっぱい達成してもらうことで、プレイヤーのやる気を高めようという試みなわけです。
逆に、ゲームバランスが悪い作品にかぎって、『ゲーム序盤が一番難しい』なんて欠点がよく内包されていますが、まぁ、結果はいわずもがないでしょう。
ゲームなどの話からだいぶ離れてしまいましたが、人付き合いであったり、将来、私たちが後輩を育てたりするのにも、報酬の与え方はとても重要なポイントです。
人をやる気にさせるのも、やる気を削ぐのも、報酬のあげ方次第。
こいつは、マスターするしかなさそうですね。
(※1)
ただし、人にとっては褒められるより、お金が欲しい。という価値観の人もいます。よって、相手によって、与えて喜ばれる報酬の内容もかわります。
(※2)
金銭で報酬を与えられたときに出る脳内物質は、ドーパミンです。これが放出されると、幸福感ヘヴンが生じますが、報酬を繰り返すほど効果が小さくなる(減衰する)といわれています。
対して、言葉で感謝を伝えられた時にでる脳内物質は、オキシトシンです。こちらも幸福感が与えてくれますが、ドーパミンと違って繰り返し与えても、効果が小さくなることはあまりありません。
ドーパミンによる幸せは、どんどん報酬量を強くしていかないとすぐに減衰し、満足できない体になる。すなわち、依存症の原因となるとされてます。
(※3)
このように、毎回報酬を与えるスタイルを、連続強化。
また、たまに報酬を与えるスタイルを、間歇(かんけつ)強化といいます。
つまり連続強化で始まり、間歇強化に少しずつシフトするわけです。
ただし、報酬をまったく無くすわけではありません。
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