30.保護 ほご
私はどうすることも出来ず、そのまま倒れていくはずなのだが……。
「……??」
なぜか何も起きない。
普通、後ろから倒れれば何かしらの衝撃があってもいいはず……というか、あるはずだ。
それなのに、そういった衝撃が何もない。それどころか……何やら浮いているような感覚すらある……と思い、目を開けると……。
「え……? えぇ!」
実際は『浮いている感覚』なんてそんなあいまいなモノではなく……本当に浮いていた。
「……」
一体、何が起きたのか全く分かっていない。
『とっ、とにかく早く、早く!』
『手を伸ばせっ!』
私は全く状況が分からないまま、二匹に言われるがまま必死に手を伸ばし……。
「……ハァハァ」
二匹に引っ張られ、窓枠に足を引っかけそうになりながらも私は窓から外へと脱出することが出来た。
『ふぅ、どうやら間に合ったようじゃな』
「……!」
そう言う言葉が私の上から聞こえ、私は思わず身構えた。
『あぁ! そう警戒しないでくれ! ワシはお前さんたちを助けに来たんじゃ』
「……」
私が警戒感を表したのに気がついたのか、空から現れた『それ』は少しオーバーリアクション気味に両手を左右に振り、ついでに首も左右に振って否定した。
『そこにいる二匹の子らも同じ理由じゃ。褒めてやってくれ』
「……」
ただ褒めてやってくれ……と突然言われてもどうすればいいのか分からない。
それに……必死になっていて完全に忘れていたが……どうして、この『和服を着た巨大な烏』と『この犬たち』は私と普通に会話をしているのだろう。
「……あっ! たっ、助け! 助けを呼ばないと!」
なんて、一瞬呆けてしまっていたが、すぐに私は『目的』を思い出し、慌てた。この場に犯人の仲間がいると思っていたが、何の偶然か知らないが、運良く誰もいない。
しかし、ついさっき「早くしろ!」と大声を上げ、乱暴に扉を叩いていた。意外にここのトイレの扉は脆い。
下手をすれば、成人男性のタックルで簡単に開いてしまいそうなくらいだ。
そして、私がトイレにいないという事がバレて、しかも窓の鍵が開いているという事が知られたら……。
今いる彼女たちの身が危ない!
「いっ、急がないと!」
『まぁまぁ、お嬢さん』
私は急いでその場から走り出そうとしたが、なぜか全然前に進まない。
「え?」
『そう急ぎなさんな』
「いっ、いやでも……」
巨大な烏はにこやかな笑顔を浮かべながら、大きな扇で優雅に空を仰いでいる。
『……大丈夫です』
「え?」
その内の一匹が、私にそっと話しかけてきた。
『むしろ、あなたが誰かに助けを求めてどこに行ったのか分からなくなるのが一番困るんです』
「どっ、どういう意味?」
全く意味が分からない……それどころか、今の状況も全然分からない。彼らは一体、何だというのだろうか。
『つまり、お嬢さんがここにいれば助けはちゃんと来る。そして、中にいるお嬢さんたちも助かる』
「え? でも、こんなところにいたら犯人たちに……」
『そこら辺はぬかりないぞ? ついさっき、見張りをやっとったヤツらはそこら辺でのびてもらったからなぁ』
チラッと見た方向に靴……いや、足首の様な者が見えたから、多分。烏の言っている事は間違いないだろう。
ただ正直、見に行く勇気もない。
「……」
とっ、とりあえず彼らが『何者』という事は分からないが、明らかに『普通』という事だけは理解出来た。
『状況の説明をしている暇はありませんが、
『彼女たちもじきに保護されるでしょう。それまでお待ち下さい、今。あの中は危険ですので』
そんな事を言われると、尚更気になる。
「…………」
しかし、私が行ったところでどうしようもない……。
下手をすれば足手まといになる。私は、悔しい気持ちになりながらも、その場でジッと警察が到着するのを待つ事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、その後――。
私は駆けつけた警察官によって保護され、あの密室の部屋で寝ていた彼女たちも無事に保護された。
保護された直後。
先輩は「なんか、河童がいた!」とかなり興奮気味だったが、警察の人たちは「精神的な興奮と疲れからによる気のせい」だと彼女に説明していた。
「……」
私も似たように『話す犬二匹』に『巨大な扇を持った和装の巨大烏』を見ていたから、彼女の話も本当だろうな……と思っていた。
でも、私が警察の人に声をかけられ、保護された時には……彼らの姿はなくなっていた。
――結局のところ。私たちはまたも同じ病室で怪我の手当などのために、一時入院することになった。
「ねぇ、見てない?」
説明をされた後も先輩は隣で寝ようとしている後輩に尋ねたが、どうやら後輩は保護された時もずっと寝ていたらしく……。
「寝ていたので、知りません」
先輩の言葉に平然とそう返していた……のだが「よくそういった状況で寝ていられるな……」と彼女の肝の強さに、感心していた。
ただ、先輩は私はその場にいなかったので分からないと思ったらしく、私に聞くことはなかった。
「うーん、勘違いなのかなぁ」
そして、先輩は小さくそう言って、そのままゆっくりと眠ってしまった。
ただ、私は「遠目で見た」というワケではない。ちゃんと彼らと会話をしていた。だから、なおさら強く思った。
「……勘違いじゃ、ないと思いますよ。先輩」
だから、私は小さくそう呟いた。
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