28.選択 せんたく


「……」


 たっ、確かに身長や体重を考えれば明らかに私が適任だ。


「そして、それを使って外に出て助けを呼びに行けばいいのよ」

「……」


 先輩の言っている事は分かる。それに一応、筋も通っている……とは思うが、外に見張りがいる可能性も否定出来ない。


 なぜなら、犯人たちは私たち誰か一人でも外に出て警察。または誰か大人に助けを求められるたくないからだ。


 ここは結構な『田舎』だ。


 たとえ私たちが『誘拐された』という事が知られていなかったとしても、多分『行方不明』になっているという情報は伝わっているはずだ。


 そんな中、その行方不明になっている本人が突然現れて、事情を説明されてしまえばすぐにこの場所がバレてしまう。


 犯人たちは、絶対そんな事は避けたい。


「……」


 だからこそ、見張りを置いているかも知れない。


 それに、そもそも私にそんな大役が務まるとも思えない。失敗したら……というリスクを考えると、とても簡単に返事は出来ない。


 ――しかし、外に出たいのも事実。


 それは私に限った話ではなく、一緒にいる彼女たちもそうだろうが、この作戦が上手くいくという気もしないし、保証もない。


「……ごめんなさい」

「え」


 しかし、謝ったのは私ではなく『先輩』だった。


「私自身、早く出たいが為にあなたにそんな選択を迫るのは間違っていたわね。気にしないで」

「そっ、そんな……」


 申し訳なさそうに謝る先輩を前に、私も申し訳ない気持ちになった。先輩だけでなく後輩も当然、早く出たいだろうし、私も早く出たい。


「……」


 そのためにわざわざ作戦を立ててくれたのに、私が決断出来ずに渋ってしまったから……。


「気にする必要はありません」

「!」


 今度は後輩が、私を励ます様に言った。


「誰だって嫌な事はあります。それに、今の話された話がそこまで上手くいくとも思えない。余程上手くいく保証がなければ、動かない方が得策です。下手に動けば余計に話がこじれる可能性だって在るのですから」

「…………」


 一年生にしてはやけに落ちつている子だと思った。


 私は、選択を迫られている気になっていたが、どうやら彼女は彼女なりに冷静に事態を見つめてくれていたようだ。


「でもせめて、助けが来るっていう安心感は欲しいわよね」

「それは私たちにはどうする事も出来ません。私たちはとりあえず待つ。それでいいんです」

「……」


 どうやら後輩は、あくまで『その場で待機』をしたいらしい。


 確かに、捜しているであろう人たちからしてみれば、下手に動かれるよりもその場で留まっていてくれた方が見つけやすい。


 道に迷った時などもそれは言えるだろう。


 分からないのであれば、分かる人にある程度の情報を渡し、来てもらった方がいい。分からないにも関わらず、下手に動いてしまうから余計に迷ってしまう。


 それに対し、先輩は「どうにかしてここから出たい」という感じだ。


 多分、動かずにはいられないタイプなのだろう。現状が変わらないのであれば、自分から行動してどうにか事態を進展させたい……そういうタイプらしい。


「……」


 その全くタイプの違う二人がこの場にいる。


 人が増え、様々な考えや選択肢が増えるのは良いことだが、それがかえって事態をややこしくさせる事もどうやら……この状況を見る限り、ある様だ。


「……」


 後輩の言っている事も分かる。


 なにせ私たちを誘拐するような人たちだ。もし、逃げようとした事がバレれば何をされるか分かったモンじゃない。


 それこそ『行動の制限』だけで済めばいい……くらいかも知れない。


 ただ、先輩の気持ちも痛いほど分かる。


 もしかしたら、犯人たちが巧妙に私たちを隠していて、なかなか見つけられないのかも知れない。


「……」


 ――果たして、どちらが正解なのだろうか。


 私は、二人に示された『選択肢』を前に、どちらを選ぶか……究極の選択を迫られているような気持ちになった。

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