27.作戦 さくせん


「……」


 この部屋に押し込まれ、パッと顔を上げて、すでにこの部屋にいたのは全員で二人――。


 そして私も含めて三人。しかも、全員が全員同じ学校の生徒……。


「……」


 ただ、私はこの部屋しか知らない。


 つまり、ここ以外に部屋があるかどうかも、この場所自体どういった構造になっているのかも、そもそも犯人たちが何人いるのかも……何一つ分かっていない。


「おい! まだ見つからないのか!」


 でも、たまにそういった男性たちの大きな声が聞こえてくるから、犯人たちは基本的に『男性』で構成されているのだろう。


 さすがに私を攫った人間たちが『男性』だったから、それは何となくは分かっていたけど……。


 それでも、その犯人たちの中に『女性』がいないとも限らない。ただ、それを確認しようにも頑丈な鍵のせいで出られない。


「ねぇ」

「?」

「?」


 すると、珍しく一人の子が声をかけた。


「?」

「?」


 声をかけられたのは初めてだ。


「……何?」


 困惑していると、私以外のもう一人の子がそれに答えた。


「今『まだ見つからないのか』って言っていたけど……」


「……」

「……」


 確かに、そんな事を言っていた。


「何……じゃなくて、犯人たち。本当は私たちじゃない『』を探していたるんじゃない?」


 更にそう付け加えたこの人は、どうやら三年生の様だ。それは、胸につけているワッペンで分かる。


「……」

「……」


 まぁ、あの大声を聞く限りそういうニュアンスに聞こえてもおかしくない。でも、それなら一体『誰』を探しているのだろうか。


 しかも、犯人たちの声を聞く限りどうやらまだ見つかっていないようだし、このままでは、他にも誘拐されてしまう可能性も否定出来ない。


「それが……どうかしたの?」


 弱々しく答えたのは一年生の子だ。


 衰弱している……というよりは、むしろこの状況に対し、もはや全てを『諦めて』いるようにも思えるほど、言葉に力がない。


 確かに、ここで食べ物が出たのは今まで三回。それも『おにぎり三個』だ。三人でたべるにしては、量がいささか少ない。


 果たしてそれが『一日』なのか『一食』なのか、全然分からないが、私たちは出来るだけ噛んでその『おにぎり』を食べた。


 飲み水は出るけど、そんな『ジュース』なんて贅沢なモノは出ない。それでも『飲み物』が出るだけありがたい。


 そんな状態で、コレが後どれだけ続くのか全く分からない状況だから、気力がなくなるのも仕方がない話だろう。


 せめて外の状況が分かればいいが、この部屋には『テレビ』なんてモノはないし、自分たちのスマートフォンも取り上げられてしまっている。


「…………」


 まぁ、私自身は何も話していないのだけれど……。


「コレはチャンスよ」

「チャンス……ですか?」


「そうよ。ヤツら、獲物の子が見つからないって焦っているわ」

「そう……ですね」


 それが一体どうしたというのだろうか。


「焦っているって事は、それだけ穴があるって事。今なら脱出、出来るかも……」


「え」

「……」


 先輩とは言え、何を言い出すのか……と思わず驚いた。いや、それ以上に……。


「にっ、逃げるつもりだったんですか?」

「そうよ。私はそのために、あいつらの言葉に耳を澄ましていたのよ」


 どうやらこの先輩は、最初からそのつもりでずっと黙っていたらしい。それが私には『無気力』に見えてしまった様だ。


「いい加減ね、私はここを出たいのよ。あなたたちは違うの?」


「……」

「……」


 ――私だって出られるものなら早く出たい。自力でどうにか出来るのであれば、そうしたいくらいである。


「でも、どうするんですか? 逃げるにしても、三人一緒に……なんて到底無理ですよ」


 むしろ『無気力』だったのは、一年生の子の方だった。


 しかし『無気力』とは言え、それは『現実が見えている』からこそくるのだろう。


『出来るのであれば、そうしたい。でも、現状はかなり厳しくて、どうにも出来そうにないから、待つくらいの事しか出来ない』


 そんな、彼女の心の声が聞こえてきそうなくらいだ。


「完璧に……とは正直、言えないわ。でも、どうにかしないと待っているだけじゃダメだと思うの。だから……」


「?」

「?」


 先輩は、ドアの方をチラッと見た後、私たちと向かい合い、小さな声で話し始めた。


「ここ、トイレに行く時は大抵誰か犯人に付き添われるでしょ」


 確かに、この部屋にはトイレがないからなのか、どうしてもトイレに行きたい時は、近くを通りかかった人間に声をかける必要がある。


 でも、実は今も頑丈なカギがかかっているから安心しきっているのか、犯人たちはこの近くにはいない。


「その時を狙うのよ」

「どっ、どういう事ですか?」


「トイレの中には小さな窓があった。女の子一人くらいは取れるはず……」

「……」

「……」


 確かに、私もトイレは使ったから知っているが、その窓は確か、私がトイレの蓋を踏み台にして、背伸びをしてかなりギリギリの高さだったと思う。


「……って、待ってください。その作戦、どう考えても……」


 私は思わず二人を見比べた。


「……」

「……」


 一年生の子は、私と背は同じくらいだが、体格は……正直ぽっちゃりだ。それを考えると、たとえ登れたとしても、窓を通れるか微妙だ。


 そして、この作戦の立案者である先輩は……私よりはきゃしゃであるモノの、明らかに私よりも小さい。


「……」


 つまり、私がその作戦をやらざる負えない……。


「……」

「……」


 しかも、二人とも私の方を見てなぜ無言のままうなずいている。それこそ「あなた以外いない」と言っているかのようであった。

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