26.部屋 へや


「しかし、犯人逮捕するとして……勝手に人員を割くわけにはいかないと思うのですが」


 ただでさえ、普通の……見えない人たちにとって『あやかし』は最悪の場合『言い訳』と取られかねない。


 見えている人間からすれば「見えているのに!」と言いたいところだろうが、残念ながら『見える人』にしかその姿は見えていないのだ。


 それは、カメラなど電子機器には全くと言っていいほど映っていないという事を意味する。


 どこにも『映らないモノが見える』という事で、ただでさえ『世間』から孤立しうるのに、それが『警察』なんて組織にいれば、何をするにしても簡単に行動をする事自体難しい。


 ましてや『あやかし』が関わっている……上に、その『あやかし』が原因で犯人が捕まらないのだ。


 それを説明するのさ……なかなか骨が折れそうではある。


「……そこはなんとかします。とりあえず、犯人の居場所と証拠さえあればいいので」

「…………」


 これぞ『結果が全て』という事なのだろうか……なんて思ったが、それ以上に湊さんの「犯人を捕まえたい」という気持ちが前面に出た結果なのだろう。


「あの、ところで月夜さん」

「なんだ」


「その犯人たちに手を貸している『あやかし』って……」


 正直、私はその『あやかし』が気になった。


「……」


 月夜さん自身がかなり『強いあやかし』だ。それなのにも関わらず、月夜さんは最初、あえてその事を口にしなかった。


 もちろん。確実に分かっていなかったから……というのも、あるとは思う。


 しかし、私にはその「言わなかった」という事実が、烏天狗とは違う意味で「口に出すのがはばかられる」様に思えてならなかったのだ。


「正直、あやつの事はあまり言いたくはないのだが……」


 月夜さんからその言葉が出る時点で珍しい。


「……」

「……」


 それこそ烏天狗の様に嫌々……とか、そういう『楽しい』という感じではない……という事は、月夜さんの表情を見ればよく分かる。


「あの、それは……一体?」

「??」


「そいつはの名は……雪女だ」


 私と湊さんは、その意外な人物に驚き……はしなかった。


 いや、むしろどうリアクションすればいいのか分からなかった。


 なぜなら、私の知っている『雪女』は……冬にしか現れないと思っていたから――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「うっ……」


 私は、突然連れられてきた『部屋』で目を覚ました。


「……」


 しかし、ここは『部屋』なんて、そんないい場所ではない。


 ここは「とりあえず倉庫を部屋っぽくしました」というくらい簡素な造りだった。


「…………」


 そこに私と同じ学校制服を着たの生徒が何人かいた。


 特に拘束はさていないものの、簡素な造りの割に部屋には頑丈な鍵がかけられており、そう簡単には出られそうにない。


 ――出られない。


 この『揺るがない事実』が、私たちの「どうにかしよう」という行動の原動力とも言えるその気持ちを削ぐ。


 それこそ最初は「早く出たい」だったのが、今では「どうして、こうなったのだろう」という事ばかり考えている。


「……」


 でも、いくら思い返してみても、どうしてこうなったのか全く分からない。心当たりも……ない。


 ここに連れられてきた理由……というか、攫われた日も私はごくごく普通に帰り道を歩いていただけだ。


 そして、ふと気がつくと見知らぬ黒い車が私の近くで止まった。


 私はてっきり「誰か待っているのだろう」と思っていた。


 だが、突然その車の扉が開き、目出し帽を被った男性が数人出て来て……私はその車に押し込まれてしまった。


 その時、男性の一人に何かがしみこんだ布を強引に私に押しつけ、そのまま私は気を失ってしまった。


 その後、私はここに連れてこられ……過ごしている。


 ただ、ここにいると……全く時間の流れが分からない。今が何時で……どころか、攫われて何日経っているのかすら分からない状況だ。


 しかし、どんどん人が増える……なんて事はなく、私がここに連れてこられてからは人は増えていないらしい。


「……」


 多分、警察の人が捜してくれてはいると思う。でも、時間が経つにつれて……その気持ちもだんだん揺らいでしまっていた。

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