25.理由 わけ


「――でも、そういった自分で調べようとしている人がいたら、普通は止めようとするんじゃないですか?」


 しかも、見た目が派手……というか整っている人がいればかなり目立って逆に狙われかねない。


「偶然、俺はあなたの姿を見たのですが……普通の人間ではない……と、その時分かりまして……」

「…………」


「どっ、どうして分かったんですか?」

「それは……雰囲気です」


 そう言われて私は「なんだ、雰囲気か」と思ってしまった。しかし、月夜さんはなぜか感心したような表情を浮かべている。


「ほぉ、貴様は私を『見て』分かったのか」

「はっ、はい」

「…………」


 たとえ相手が『警察官』であったとしてもこの態度。そして、相手に敬語を使わせる雰囲気……この人は多分、私……いや、この普通の人が萎縮してしまう様な人でもこれは崩さないのだろう。


「あの……」

「娘よ。貴様は中途半端なアンテナであるがために分からんだろうが、分かる人間というのはこれくらい分かるというモノよ」


 そう言われてしまうと「なっ、なるほど」と思わず納得してしまった。ただ私も『見える』という人に会ったことがない。


 だから、純粋にそう思ってしまったのだろう。


「しかし、分からぬな。貴様が私の事を知った状況は分かったが、なおさら貴様はどうしてここに来た? 貴様も警察の一員であろう?」

「そっ、そうですよ」


 色々と話したが、やはりそこがどうしても気になるところだ。


「……あなたが事件について調べているのは知っていました。そして、それに彼女が関わっているという事も……」

「そして、こやつの後を付けてきた……というワケか」


 男性は無言のまま、頷いた。


「いけない事だとは、分かっていたんです。それでも……」


 あまりにも進展しない捜査にもどかしさを感じていたのだろう。どうにかしたいという気持ちからそういう行動をしてしまったワケだ。


「……貴様、名前は?」

「え、あっ……みなとじょうと言います」


 痛いところを突かれたのか、湊さんは一瞬だけ体をビクッとさせた。しかし、どうしてこの人にはわざわざ名前を聞いたのだろうか。


「……」


「フン、どうしてわざわざ名前を聞いたのか……と言いたそうな顔だな。そんなに気になるのか?」

「いえ、そんな事は……」


「なに、別段、気にすることではなかろう? ただ、貴様がなんと呼べばいいの困っているように見えただけの事よ」

「そっ、それは……わざわざありがとうございます?」


 果たして、ここはお礼を言うところなのだろうか。ただ、月夜さんは良かれと思ってやって聞いてくれたのだから、お礼は言っておくべきだろう。


「それはそれとして、貴様の思惑は今の話で何となく分かったわ。たわけが」

「………」


 痛いところを突かれたのか、湊さんは一瞬だけ体をビクッとさせた。


「貴様らの捜査が進展しない理由を他人のせいにするではない……と、普段であれば言っているところだが」

「……」


 なぜか月夜さんは湊さんをチラチラと観察している。


「ふむ、貴様は警察の中ではそれ相応の立場……の様だな」

「……」


 私は思わず月夜さんの言葉にギョッとした。


「つっ、月夜さん。あまり無理難題は言わない方が……」

「……貴様、もしや私の事を無理難題を押しつけ無礼者と思っているな? それか、阿呆だと思っているだろう」


「そっ、そんな事は」


「まぁよい。警察の」

「はっ、はい」


 警察官を顎で使うあやかし……という、この異様な状況を初めて見た様な気がする。


「どのみち私たち『あやかし』に出来る事など、たかが知れている。トラウマ確実の思い出をプレゼント出来たとしても、私たちが犯人たちを逮捕する事は、残念ながら出来ない」

「そこで、湊さんたちに犯人逮捕を手伝ってもらう……という事ですか?」


「フン、ぬるいわ」

「え」


「先に犯人を警察に逮捕されたところで、そいつらが反省の色など見せるはずがなかろう? それに、もう大体どこにいるかは分かっている。先に私がそいつらに天罰を下してやろう」

「そっ、その後に俺たちが行けばいい……というワケですか」


「貴様ら警察は犯人逮捕に色々な手続きが必要であろう。その時間稼ぎをしていると思えば良い」


「……」

「……」


 確かに、月夜さんの言っている通りにしておけば、多分。まだ自分たちの居場所を勘づかれているとは思っていない犯人たちにとっては、まさに『寝耳に水』だろう。


 ――それが結果的に『奇襲』になる……というワケだ。


「……と言いますか、月夜さん。もう分かっているんですか? 犯人の居場所」

「大まかな『地区』程度ではあるがな。完全に分かり次第乗り込むつもりではあるのだが……」


 なぜか、月夜さんはそう言って考え込んだ。


「どっ、どうかしたんですか?」

「今回の一件……明らかに『人間』のみで出来る所行しょぎょう。どうも他の……それこそ『あやかし』が関わっているようにしか思えてならなくてな」


「えっ、あっ……あやかしが?」

「そっ、それはつまり……」

「それならば、貴様ら人間の警察が見つけられん理由も分かるだろう」


 月夜さんはそう言い、湊さんも「それなら……」という感じだった。多分、丈さんも『あやかし』と『人間』の違いを知っているから、そういうリアクションを取れたのだろう。


 そうでなければ、下手な対抗意識を持ってしまうところだったのだろうから――。

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