24.目立 めだつ


「…………」


 なぜ警察官がここにいるのだろうか……と、さも当然の事を思ったが、まぁそれは今はどうでも……いいと言うわけではない――。


「それにしても……こんなところにこんな蔵があったとはな」


 ただそれはそれとしてこの人は今、月夜さんに声をかけられて出て来た……。


 月夜さんは、その力が強力すぎるが故に『化けていれば』通常は見えていないはずの祖母でさえも、見させる事が出来る。


 ただ、本人曰く「私に見せた狐の姿は、普通の人間には見えない」という事らしく、今の月夜さんはその狐の姿だ。


 どうして『狐の姿』なのかというと……それは私に変な噂を立てさせないためらしい。


『人間というヤツは少しでも疑いがあれば徹底的につぶしにかかる。それならば! 最初から疑われるような事をせねば良いだけのこと!』


 なんて自慢気に言っていた。確かに、月夜さんの見た目は……あまりイケメンに詳しくない私でも、思わず「あっ、イケメン」と思ってしまうほど整っている顔をしていると思う。


 そんな人と一緒に行動している姿を高校の誰かに見られようものなら、あらぬ噂を立てられかねない。


 それは私も困るが、月夜さんとしてはその噂のせいで行動を制限されてしまう事自体が許せないのだろう。


 元々、自分中心で物事を考えている人であるという事くらいは、この数日の付き合いでよく分かっている。


 ましてや、自分より下に見ている人間に下克上されるのなんて、それこそ自分のプライドが許さないのだろう。


「ほぉ、どうやら貴様はこの娘の様に半端というワケでもなさそうだな」

「……」


 ただ私を引き合いに出すのは止めて頂きたい。そりゃあ、確かに私は中途半端なアンテナですけども……。


「貴様は、この蔵の存在が分かっていながら近づきはしなかった」

「……」


「それは、この蔵に結界があると分かっていたからであろう? 今日だけで何度かここを訪れた人間の痕跡が残っていたからなぁ。ここにいる娘はその時間帯は学校に行っているはず、そもそも全然痕跡が違い過ぎるがな」

「……」


 そう言ってその男性を睨みつけている表情は、まるで「来ていたのは、お前であろう?」と言っている様だ。


「そして、またここを訪れた際、私たちが帰って来た事に気がつき、そこの物陰に隠れた……というところか」


 月夜さんがそう言うと、さすがに観念したのか、その男性はため息と共に「降参」と言わんばかりに両手を挙げた。


「……その通りです」

「すっ、すごい」


「フン、この程度造作もないわ。見たところ、貴様は『警察』という存在なのであろう? こんなところで油を売っている場合か?」


 確かに、月夜さんの言うとおりである。


 犯人は未だに捕まっていない。それなのに、捜査をしているはずの警察官がこんなところにいること自体おかしい話だ。


「こちらも必死に捜査をしています……」

「手がかりもほぼなく、現状八方ふさがり状態といったところか?」


「……捜査はしているのですが」

「……」


 警察官としては、詳しい捜査内容を話すことは出来ない。だから「現状、捜査中」としか言いようがないのだろう。


「フン、貴様のそのような姿。見た上でそう言われても、何の説得力もないな」


 確かに、今のこの人の姿を見てそう言われても、正直不安になってしまう。本当に、捕まえてくれるのだろうか……と。


「……」


 それは多分、本人も分かっているのだろう。だから、何も言い返せず、拳を握りしめる事しか出来ない。そんな自分が不甲斐ないという事も……。


「あっ、あのそれでどうしてここに来られたのですか?」


 このままではただの『言葉責め』になってしまう。そこで、話題を変えようと私は男性に尋ねた。


「……あなたの事は、何度か街中で見ていました。ここでは見ない、とても顔が整っている男性がいる……と。そして、その男性が事件について調べている……と」


 ポツポツと呟くように男性はそう言った……が、目立たないならまだしも、そこまで目立ってしまってはかえって悪目立ちしている。


「何しているんですか、ただでさえ目立つのに……」


 別に怒っているつもりはないが、そこまで悪目立ちしてしまっては、犯人に警戒されてしまう。


 それは、月夜さんも分かっているはずなのだが……。


「……それは私ではない」


 まるで小さい子供が拗ねる様に私から視線を外したが、それは完全に「私だ」と言っているのと変わらない。


「…………」


 むしろ、そう言っている様にしか思えなかった。


「ええい! そもそも貴様は何用でここに来たのだ!」


 バツが悪くなれば大声で怒鳴る。もしくは、風向きが悪くなれば……などなど自分の立場が悪くなりそうになれば怒鳴り散らす……いった場面に出くわすことは結構多い。


 それは「恥ずかしい」という気持ちの裏返しからくる行動だろう。


 ただ、これがもし、あまりその相手の事を知らない状態で突然、怒鳴られれば萎縮してしまうはずだ。


 しかし、残念ながら月夜さんの事は、こうして話すようになり、数日経ち結構分かるようになった。


 だから、そんな状況で怒鳴られても、私にとっては「痛いところを突かれたただの照れ隠し」としか思えなかった。


 ――月夜さん。意外に「人間は……」と口では言いつつも、人間らしい面も持っている『あやかし』である。

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