12.神社 じんじゃ


 確かに『聞かれたくない話』や『深く追求されたくない話』は、私のような若輩者じゃくはいものでもある。


 わざわざ聞くつもりもないが……。


 この「深く追求するな」と言っている様な態度……これはこれで『人間らしい』と言えるのではないのだろうか……なんて思ったが、それこそ口に出すべきではないだろう。


「でっ、でも……どうしてわざわざ人間にそんな進言を?」

「……」


 ただ、月夜つきよさんは私と会ってから何度も『人間ども』と言っていた。だから、さぞかし人間が嫌いなのだろうと思っていた。


 それなのに、そんな人間たちのためにわざわざ姿を見せ、しかも『進言』したのだろうか。


「……」


 もちろん、人間は月夜つきよさんに恐れをなしているからその通りにはするとは思う。


 だが、人間には色々いる。その全員が全員……月夜つきよさんに恐れをなしているワケじゃない。下手をすると、攻撃されてしまう可能性もある。


 当然、それは月夜つきよさんも『人間嫌い』だからこそ、よく知っているはずだ。


 それなのに……どうして。


「……進言ではない」

「え」


「人間に忘れ去られた『神』は、この世で存在する事が出来ない」


 ここまで断言しなくても……なんて思ってしまった。


 でも、それが現実で事実なのだろう。それに対して、私の様な『人間』が感情を向けるのは全くのお門違いだ。


「だが、そこにいる狛犬。いわば、コフやマウの様なヤツらはその『神』がいなくなった神社に縛られることになる。その神社を守るためにいるようなモノだからな」

「そっ、それって……」


「つまり、あやつらは本人の意思に関係なく、あの場から動けない。ずっと何を守っているのか『目的』すら分からぬままあそこにいることになる。私は、それを無視出来なかっただけだ」

「…………」


 それは多分、月夜つきよさんのいうところ『あやかしの中でも上位の存在』だからこそ、こうした行動に出た……というワケなのだろうか。


「……優しいんですね」

「ふん、何を今更言うか。自分たちの主人を無くして尚、その場に尽してきた健気なであやつらを放ってはおけん」


「……そうですか」


 月夜つきよさんは、私から視線をプイッとそらしてしまったが、このタイミングでそらされると……どうにも『照れ隠し』に見えてしまう。


 それがちょっと……笑えてしまったのだが、ここで笑ってしまったら、月夜つきよさんの機嫌を損ねるのは目に見えている。


「……」


 だから、私は何も言わず無言のまま月夜つきよさんと共に空を見上げた。


 月夜つきよさんと一緒に見上げた空は……星が瞬いており、とても幻想的で綺麗だった――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 しかし「綺麗な星を見上げてその日はおしまい」というワケにはいかない。


 そもそも、ここに来たのもコフとマウに『探索』を頼んだのも、キチンとした『目的』があっての事だ。


「……」

「あの、もしかして『狛犬』に陸地の探索させるだけで後は何もしない……なんて事は……」


「娘……。貴様、私をなめているのか? それか阿呆と思っているのだろう」

「そっ、そんな事は……」


 ない……というか、月夜つきよさんがこの程度で終わらせるほど甘い人間ではないと分かっている。


 ――だからまぁ、月夜つきよさんのことだ。


 調べるだけ調べて後は警察の人に情報提供して終わり……なんて簡単で甘いモノではなく、もっとこう『許さない』といった表現の方が合っているかも知れない。


「当然この程度では終わらせるつもりなど毛頭無いわ」

「そっ、そうですか」


 そうですよねぇ……という言葉を付け足したいくらいだったが、その月夜つきよさんの表情は……こちらが思わず相づちをうつのを躊躇うくらい、怖い笑顔を浮かべている。


「…………」


 この時になって、私はようやく『世の中には敵に回してはいけない相手がいる』という言葉の意味を理解した。


「ふむ、時間からしてまだ余裕があるようだ」

「えっ、そう……ですね」


 祖母からは「あまり遅くならないように」と言われていた。


 ただ、月夜さんのこの口調では、どうやらまだ帰らせてくれるつもりはサラサラなさそうだ。


「では、次の場に赴こうではないか!」

「はっ、はい!」


 私も月夜つきよさんに乗せられるように、思わず元気よく返事をしていた。


「……って、ちょっ……まっ、待ってください!」

「ふははは! 早く来るがよい。置いてくぞ」


 そうして、私はこの登ってきた階段をまるで平坦な道を歩く様にスタスタと下り、先へ先へとしまう月夜つきよさんをまたも必死に追いかけた。

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