11.祭祀 さいし
『それでは、お任せ下さい』
いや、これくらい分かりやすく『人間の常識が通用しない』というのが分かっていた方が、諦めがつく……とでも言えばいいのだろうか。
「はぁ……」
さっそく与えられた仕事に向かったコフとマウを見送った後、私は小さくため息をついた。
そして、彼ら『あやかし』が私なんか……いや、人間なんかの『枠』にはめられない『存在』だという事にようやく気付かされた。
「どうかした? 娘」
「……いえ、私も結局『人間』なんだと今更ながらに感じていただけです」
「……ふむ、人間というモノは自分のものさしで物事を判断する『癖』の様なモノがあるからな。まぁ、大方なところ。娘、貴様の中で私たちは図れなかったといったところか?」
「…………」
正直、ここまで言われて今更肯定する気にもならないのだが……。この人に関しては『沈黙が肯定』というのが通じない様だ。
否定にしろ肯定にしろ、ちゃんと言葉で返さなければならないらしい。
まぁ、こういったところも『人間の常識が通用しない』という事にもなるのだろうが。
「……それで、ここがあなたの
私はふと『ある事』が気になった。
「ああ、その通り。それがどうした」
どうやらこんな言い方をすれば、さすがの
「いえ……」
「……なんだ、気になる事があるのであればその場で申せ、後で聞いても答えんぞ」
一瞬、ギロッ……と睨まれたように感じ、思わず身がすくんだ。
「……」
しかし、
あんな含みのある言い方をされて、それを「なんでもない」と言われれば気にもなるし、いい気分もしない。
それに、
このまま「本当になんでもないんです」と言ってしまうと、たとえこれから先、気になる事があっても教えてくれないだろう。
「……」
それが分かっていても、それを「口に出す事自体がはばかれる」と思ってしまうのは……人間の
「あの……」
「なんだ、早く申せ」
「あなたは『
「…………」
「…………え」
ほんの一瞬だけ空気が凍ったような気がした。
「はぁ……まさか『人間たち』が作り出し
「え……、なんですか。なんでそんなに呆れかえっているんですか」
そりゃあ、怒られるより全然いい……が、ここまで分かりやすく呆れられるのも……ちょっと。
「はぁ、良いか」
「はっ、はい」
まるで大人が子供に教えるように、月夜さんは自分の腰に手を当てた。
「神社に祀る『
「はぁ……」
「それこそ山や川に湖……それこそ沼などから、日本古来の神に属さない民俗の神に実在の人物や伝説上の人物、陰陽道やら道教の神、神仏分離を免れた一部の仏教の仏神などの外来の神も含まれ、猿や鯨と言った動物を祀っている場所もある」
「えっ、えと……。つまり、ここは
今の話の流れから察するに、要は「この神社は、私を祀っているのだから、私が住処にしても問題なかろう」と言いたいのだろう。
「……いや『今は』そうなっている……という言い方が正しいな」
「今は?」
その言い方では『昔はそうじゃなかった』と、自分で言っている様なモノだ。
正直「
「……」
しかし、
「……ここは、元々。全く別の神が祀られていた。しかし、
そう言うと、
「娘、貴様も私の話を知っておるだろう?」
「えっ、あっ……」
多分、知っているとは思っていた。しかし、まさか本人の口からこの話題が飛んでくるとは夢にも思っていなかった。
「今更隠すこともなかろう。それに、ここに住んでいればいつかはこの話を聞くことになる」
「じゃあ、あの話は全て?」
「……とにかく、私に恐れをなした人間どもは私を祀る事にした。その時、私は人間どもの前に現れ、ここに神社を作るように言ったのだ」
私の問いかけは、多分聞こえていたはずだが、まるで聞こえていないという感じでスルーされてしまった。
「…………」
でも、それは「合っている」とも「合っていない」とも言っていない。
それはつまり「この話は深く追求するな」という
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