10.主様 ぬしさま
「……」
私の目の前に現れたのは、中型犬くらいの大きさの二匹……。
ただ、今までの話の流れで行くと……多分、この『二匹』が『狛犬』なのだろう……というのは検討が付く。
だが、確か『狛犬』というのは、獅子や犬に似た『日本の獣』だったはずだ。
「……」
しかし、目の前にいる『そいつら』は……なんとも『可愛らしい』という表現が似合いそうな……。
「ふん、驚きで声も出ぬか」
「かっ、かわいい」
「……はっ?」
そんな月夜さんの反応とは違い、思わず口からポロッと出てしまったが、
でも、正直な話。その時の月夜さんの顔を思い出すと……未だに笑える。
「ハッ……!」
私はすぐに口元を押さえたが、思わず口に出してしまった事でもはや隠す必要もない。
「こっ、こんなフサフサで……こっちはフワフワな毛並み……そう簡単に作り出せるモノじゃない」
だから、私はもはや気にもせず、むしろ若干興奮気味でその『犬』たちに近づいた。
「ふむ、よくは分からんが、ようは貴様もこの『狛犬』を気に入った……と見ればよいのか?」
「…………」
気に入った……と言えば、確かにそうかも知れない。
しかし、正直なところで言うと『気に入った』というよりは『気になる』の方が表現としては正しい。
「まぁ、貴様の意見などどうでも良い」
「……」
いや、どうでもいいならわざわざ言わなくてもいいと思うけど……。
正直、いつも神社で見るような『石像』とは違い、そのフワフワで柔らかそうな毛並みの一匹と、フサフサで指通り滑らかそうな毛並みの一匹……対照的な二匹を触ってみたい……という衝動もあったが、大事なところはそこじゃない。
「……あの、それでこの子たちをどうするんですか? 今『使う』って、言ってましたけど」
「そうであったな、実はこやつらは『犬』というだけあって『匂い』に敏感であってな。それを利用し、さらに足も速いときている。その機敏さを利用しようという話よ」
つまり、
確かに、警察でも犯人の足取りを追うために『警察犬』が使われることは結構ある。だから、決して見当違いな話ではない。
「でも、この町全体って結構広いですよ? 大丈夫ですか?」
「ふん、それは貴様ら人間を基準に考えた場合であろう?」
「それは……そうですけど」
「こやつらは優秀でな、人の言語も話せる。それでいて他の奴らからの情報収集も出来る。つまり、こやつらには『陸』で活躍してもらおうというわけだ」
そういえば、先ほど二匹が現れた時も『お呼びですか?』と普通に言っていた。あまりにも平然と言っていたから気にせずスルーしちゃったけど……。
『お任せください』
月夜さんの言葉に二匹は声を揃えて応えた。
「えぇと、つまりこの二匹……」
「おい」
「え?」
突然私の言葉を遮ったのは……フサフサの滑らかな毛並みの方の犬だ。
「先ほどから『
「…………」
なぜかは分からないが、相当怒っているのか私の方を見て威嚇している。
「にっ、兄さん! 落ち着いて」
そして、フワフワの毛並みの犬はそんな『お兄さん?』の態度にオロオロしている。
「ハッハッハッ! まぁ、そう怒るでない」
「しっ、しかし、
「この娘は私を
「……」
「が、そんな陳腐で阿呆なヤツらを
いや、色々言って私を擁護してくれた様に見えたけど、むしろ最後の言葉が
要するに、褒めたたえられたり敬われたり時に自分を使われるのはいいけど、バカにされたりダシに使われるのは耐えられない……というワケか。
「……主様がそうおっしゃるのであれば」
ただ、フサフサの犬は主に対して相当な忠誠心を持っているという事は分かった。それは当然もう一匹の方も……だけど。
「それじゃあ、この二ひ……」
「……」
「……」
私が「二匹」と言おうとした瞬間、鋭い視線を感じた。どうやら犬たちのその視線は「人間風情が名前で呼ばんか」と言っている様にも感じる。
「えと……」
「……コフとマウだ」
そんな私の「助けて」という視線が分かったからなのか、
「このコフ……さんとマウさんが情報収集と探索をしてもらう……という事は分かりました。ですが、一日中やるつもりですか?」
「フン。そんなにかからんわ、たわけ。先ほども言ったであろう? 人間基準で考えるなと」
「そっ、そうでしたね」
片腹痛い……とは、今の
「そもそも私たち『あやかし』は基本的に日が傾き始めてから日が昇るまで行動するんです。その上、一日中行動できる方は月夜様しかいないんです」
マウさんは私コソッと教えてくれた。要するにこの町全体を調べるのにそう時間はかからないという事なのだろう。
なんというか……本当に、私のような人間の『常識』なんて軽く
でも、そのこれだけ『常識に縛られていない方』がありがたい……なんて思ってしまった時点で、私も相当感覚がマヒしていたに違いない。
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