9.到着 とうちゃく
私は普段、学校の中や家の中では『階段』を使っている。
だが、公共の施設になるとついついエスカレータを使ってしまう……が、決して楽をしているつもりがあるわけではない。
言い訳がましいかもしれないが、私の言い分としては『あるモノを使って何が悪い』と言ったいところだ。
ただ、残念ながらこの外に『エレベーター』や『エスカレーター』なんて便利なモノはなく……ましてや山の上にある『神社』に行こうと思ったら、当然の様に『長い階段』や『急な坂』が存在する。
「はぁはぁ……」
「……娘。貴様そこまで体力がないのか?」
それでも、なんとか必死の思いで追いかけ、ようやく立ち止まり、こちらを振り返った……と思ったら、開口一番の言葉がコレだった。
しかも、憐みの表情……だ。
コレで
この表情は少なからず、私をバカにしている……と。
「……急いで待ち合わせに行った上に、行先も告げられずについてきた人間に向かって、それはあんまりじゃないですか」
バカにされて腹が立たない……とは言わない。
そもそもこの『あやかし』とも言われる類の存在に、私たち人間の『常識』とか『感情』なんて言っても無意味ではある……が、ここはやはり何か言いたい……と思い、口にしたのがコレだ。
「ふむ、そうであったな。人間というモノは『目的』だけでは話が通じんのだったな」
「…………」
いや、むしろ『目的』だけで話が通じるのか『あやかし』というモノは……なんて一瞬でも思ってしまったのが間違いだった。
「ふん、私たちは『手段』などは気にせん。むしろ『目的』のみで行動している。その過程などどうでもよい」
そういえば、簡単な事だったらわざわざ口に出さなくても分かってしまうんだったか……。
「それで……ここには一体何をしに?」
「む? 分からんのか?」
「ええ、全くサッパリ」
「たわけ! 全く、わざわざこの私が根城にしている神社に来たというのにまだ分からんとは」
「…………」
つくづくこの人は私を
ため息の一つくらいつきたいところだけど、下手な事をすればまた上げ足を取られてしまう。
そういえば、ここはエリカが言っていた『狐祭り』の本会場になる場所だったのも……ここだったはずだ。
――なんて思っていたのだけど、
「…………」
しかし、どこからどう見ても『普通』の神社にしか見えない。石畳の道に、ここまで来るのに相当体力を使った『階段』に……後は『大きな鳥居』か。
肝心の『本堂』は……なんというか、真っ赤……というより『朱色』をイメージさせる色を基調としている様だ。
賽銭箱があるのは……まぁ普通だし、お守りや御札を買うところも今は締まっているけど、ちゃんとある様だし、おみくじを括る場所もある。
他は特に変わったところなんて……。
「ん?」
ふと、私は目の前の光景に違和感を覚えた。
「ほう? 気が付いたか?」
「えっ、ええ。この石畳を挟んだこの『二つの岩』の上って……確か一般的には『
私は本来であれば石像が置いてあるはずの『場所』を興味深くのぞき込んだのだが『石像がない』という事以外は特に変わった様子などない。
「……ふん、言い方はともかく正解だ」
「正解?」
月夜さんは腰かけていた賽銭箱近くの階段からゆっくりと降りてきた。
「貴様も知っての通り、現在警察とやらが必死に『誘拐事件』を追っている。下手に『神隠し』などという結末を迎えないためにな」
「そう……ですね」
ここは素直に肯定。
「つまり! そやつらと同じ事をしても『無意味』という事になる」
「……」
一体何を当たり前の事を自信満々に言っているのだろうか……と、言いたくなるが、ここは我慢だ。
「そこで私は考えたのだ。完全に同じことをするのは『無意味』かつ時間の無駄だという事。そして、そもそも私は『あやかし』という事をを踏まえた上で……」
このもったいぶった言い方はまるで……舞台上の演者の様にも見える。
「私『こいつら』を使おうという結論に至ったのだ」
『……お呼びでしょうか』
「っ!」
突然、私たちの前が光輝き――。
そこにはいつの間に現れたのか二匹の……なんというか『犬』の様なモノが私の前に現れた――。
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