狛犬
8.集合 しゅうごう
「はぁ……」
あの後……私は
妖狐曰く「未成年が外を出歩くには遅い上に危険」と諭され、下手に口答えをすると「たわけ」と言われそうだったこともあり、仕方なく『付き添い』という形で来てくれたのだが……。
「……」
妖狐がそう言う時点で、なぜ「祖母も同じように考えると、思わなかったのだろう……」と、玄関の前で待っていた祖母を前に心底後悔した。
「……」
しかし、祖母を前にしても「そこはさすが狐」と言うべきか、妖狐は上手く祖母を自分のペースに乗せ、心配そうに待っていた祖母を納得させたようだ。
そして、一応……伝言をきっちりと残していた。
『明日もここに来い』
たったそれだけ……だったのけど。
『後、私の名前は
そういえば、そんな事も言っていた。どうやら私が『
「……」
ただ、自分の事は「名前で呼べ」と言っておきながら、私の事は『娘』と呼んでいる。しかも、二人称は『貴様』だ。
こちらも変えるのであれば、そちらも変えて欲しい……と、思ってしまう。
「…………」
他にも色々言いたい事はあるが、とりあえず怒り心頭の彼は、警察とは違う形で事件を解決する様だ。
やり方は……まだ分からないが、ただ現状で分かっているのは、彼のやり方は確実に『正攻法ではない』という事ぐらいだろう。
「……」
ただ、何にしても疲れた……。
「はぁ、寝よ」
私は深いため息をつき、今日の出来事を思い返すのもそこそこに、そのまま眠りについた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
学校が終わり、私は急いで昨日、
「はぁはぁ……」
時間などは特に言われていなかったが、彼の性格からすると……早く行って損はないだろう。
「はぁ……はぁ」
普段、体育以外で運動をしていない人間がいきなり走ると……やはり息切れがすごい。
「……」
なんとか蔵に到着し、膝に手を置き息を整えていると……。
「ふん、走ってきたのか」
「……!!」
何の前触れもなく、月夜さんは私の後ろに現れた……のだが、いきなり声をかけられると、心臓が止まりそうになるほど、驚く。
「ちょっ、声くらいかけて下さい」
それこそ思わずそう言ってしまうほどだったが。月夜さんはそんな事どこ吹く風だ。
「まぁよい、貴様の体調が戻り次第行くぞ」
「え……? 行く……って、どこへ?」
息を整えながら不思議そうに尋ねる私に対し、彼はその場に腰を下ろした。
「ところで……貴様の『それ』はなんだ?」
月夜さんは私の問いかけなんて聞こえなかったのか、あぐらをかき、私が持っている小さな手提げカバンを指さした。
「? ああ、コレは……」
私は月夜さんに促されるがまま、手提げカバンの中身を見せた。
「……」
本当は、何も持ってくるつもりはなかったのだが、実は、今日。学校を終え急いで準備をしている時、祖母から渡されたのだ。
『今日は、帰るのが遅くなりそうかい?』
『え?』
最初は突然、そんな事を言われた。別に悪い事をしに行くわけではないのだが、やはりいきなり言われるととドキッとしてしまう。
『いやね、一応。大人の人がついているとは言え、あまり遅くなるのは……ちょっとねぇ』
『……大丈夫。さすがにそこら辺は分かっているはずだし、万が一のことがあったらちゃんと連絡するから』
私がそう言うと、祖母は「そうかい?」と言いつつも「でも一応、コレ……」と言って私に『おむすびを二個と小さい水筒』が入ったこの『手提げカバン』持たせてくれたのだ。
『……ありがとう』
一応、お礼を言って持ってきたのだが……、私はここで「ハッ」と気が付いた。
月夜さんの性格から察するに、下手をすると「遊びに行くんじゃない!」とか言って捨てられそうな気がしてしまう。
「あっ、でもコレは……」
そう口ごもりつつ片付けようとしていると……。
「ふん、自分の祖母に感謝するがよい」
「……え?」
なぜか、月夜さんのリアクションは私が思っていたモノよりも意外にアッサリしたものだ。
「まぁよい。貴様ら人間が『軟弱』な上に、時間は『有限』だ。効率よくせねばならまい」
「あっ、はっ……はい。お待たせいたしました」
最初はリアクションに驚きを隠せなかったが、すぐに減らず口を言ってきたので、私がさっき聞いた言葉はきっと……疲れからくる幻聴だったのだろう。
――そう思う事にする。
「……って、え? 移動するんですか?」
「たわけ、そもそもここは私の『道具』を保存している場所に過ぎない。今から行くのは、私の本来の住処だ」
正直「それなら最初からそこに来るように言えばいいのに……」なんて思ってしまった。
それに、最初に私は「どこへ?」と尋ねたはずだ。つまり、聞いていなかったのだろう。
「そっ、それでそこで何をするんですか?」
「……行けば分かる」
私の問いかけに対し、月夜さんはそれだけ言った。
「…………」
正直「何か気に触る様な事を言ってしまったか?」と思ったが、月夜さんは普通の道を歩いているかのようにサッサと下山し始めしてしまい、ただでさえ慣れない山道を私は必死に追いかけた。
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