3.伝承 でんしょう
……どうして、こうなったのだろう。
「答えよ、娘」
……どうして、私はこんな状況になっているのだろう。私はただ、友達を……エリカを助けたかっただけなのに。
「貴様はどうしてここに来た。どうなるか分からずに来たのか?」
「――違う!」
そんな生半可な覚悟でこんなところには来ない。
「ほう?」
「わっ、私はこの地域の人たちが『油揚げ』を玄関先に供えていた『理由』も……伝承の事も知ってる」
「全てを知った上で私に会いに来た……というワケか? 考えなし……いや、ここまでくればむしろ滑稽」
「……」
私は無言で目の前にいる『そいつ』の言葉に項垂れた。
「……」
そう全てを知った上で、祖母の家の裏にあるこの『森』に来た。あの『狐祭り』に大きく関係しているであろう。この『
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そういえば、咲月ちゃんは『狐祭り』について何も知らないだっけ?」
「……うん」
私とエリカはこの前見た『桜祭り』に来ていた。
エリカの「夜にもお祭りは続くけど、お昼からやっているから!」という話から、昼食と夕食をお祭りの屋台で済ませようという事になった。
大きな広場では色々な出し物や
「ただ家の玄関に『油揚げ』がお供えされていたのは、驚いた」
「まぁ、この周辺じゃそれが当たり前だからね。私も父方の実家に行った時に当たり前じゃないって知ったくらいだし」
なんて話をしながら、ちょうど座れそうな場所を見つけ、私たちはそこでゆっくり腰かけた。
「そっ、そうなんだ」
「そっ! それで、その『狐祭り』には当然『狐』が関わってくるんだけど、その『狐』がさ、実は人間に化けられる『妖狐』なんだよね」
「妖狐……」
「うん。実はその昔、ここら辺に住んでいたお嬢様がある日、一匹の怪我をしている狐を拾ったところから始まって……」
「それって……」
「そう、それがさっきも言った『妖狐』だったんだけど、その頃お嬢様と似たような『若い女性』は『あやかし』に狙われやすい存在だったんだって、だからその『妖狐』もお嬢様を手にかけようとした……でも」
「……出来なかった」
「うん。なんでも『お嬢様には怪我を手当てしてもらった上に、食事までくれた。そんな恩を仇で返す様な事をするのは私の仁義に反する』という事で、その代わり何か一つ願いを叶えるという話になったんだって」
「へぇ……」
正直、私はそういった『あやかし』と呼ばれる様な『存在』は「人間の道理なんて知ったことか!」とでも言って問答無用で襲いかかってくるモノだと思っていたが、どうやらそうではない様だ。
「それで、お嬢様はその狐を看病していたんだけど……」
「けど?」
「その看病をして一週間も経たない内に、そのお嬢様と妖狐は姿を消したの」
「え……」
「お出かけ先で何者かに襲われた形跡はあったらしいし、従者の人たちも亡くなってしまっていて何も分からない。ただ分かるのは『お嬢様の姿がない』という事と『お嬢様が狐を拾い、その狐もお嬢様がいなくなったと同時に姿を消した』という事くらい」
「つまり……」
「うん、どうやらその当時『お嬢様は神隠しに遭われた』という事で、この『狐祭り』は始まった様みたい」
「へっ、へぇ……じゃあ『油揚げ』を供えていたのは」
「狐の好物とされているから……かな。その狐が姿を消したのとお嬢様が姿を消したのがほぼ同時だから『お嬢様は狐に連れて行かれた』とでも思ったんじゃないかな。だから、油揚げを供えることで『神隠し』に遭わないように……と」
「なっ、なるほど」
確かに、その『伝承』を聞くと、この地域の人たちがこぞって『油揚げ』を供えている理由も分かる。
「でもまぁ、今のご時世『神隠し』って言われてもあまり現実味を感じないんだけどね」
「それは……まぁ」
それはどうしても『リアリティに欠ける』とでも言えばいいのだろうか。
ただ、私はこの『あやかし』の話を聞くと、どうしても思い出してしまう『トラウマ』がある。
「さて! まだ日も明るいし、ちょっとここら辺ぶらぶらしよっか。ここに来るのは初めてでしょ?」
「うっ、うん」
エリカが立ち上がり、私も立ち上がると、私たちは食べ終わった空の容器をこの祭りの為に設置されたゴミ袋の中に入れて、その場を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます