2.帰宅 きたく


 まるで、威圧的な大きな門が来る者を拒んでいるような……なんて表現を本どこかで見た覚えがある。


「…………」


 今、この門を間近で見ると『言い得て妙』と言いたくなる。この家にも、住むと決まる前は高校入試のに来た時と幼い頃に来た時以外は来たことがなかった。


「今でもあんまり慣れないんだけど……と」


 一人で小さく意気込み、門を軽くいた……のだが。


「…………」


 返事がないが、ここに今いるのは祖母だけのはず。つまり「これは入っていい」と言う事なのだろうか……と思い、門を軽く押すと……。


「……なんで開いているのかな」


 私は思わずため息を盛大につきそうになった。それくらいこの頑丈そうな扉は案外簡単に、大きな門は開いた。


 たっだ、これだけ立派な門だけに、その『門の鍵が開いている』という何とも警戒心に欠けている気がしてしまう。


 でもまぁ、もしかしたら私が来るのを何となく察して開けておいてくれたのかも知れない……と思いながらその門から私はそのまま広大な敷地へと足を踏み入れた――。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「…………」


 たまに「もしかしなくても、私の家って?」と思う事がある。


 しかし、母曰く「田舎でただ敷地が広いだけ」らしく、決して私の思っているような『お金持ち』ではない……らしい。


「あ……」


 それでも、これだけのキレイな庭や『家』というより『屋敷』と言ってもいいくらいの大きさの建物を見ると……やはり『お金持ち』と錯覚しそうになってしまう。


「おやおや、おかえりぃ」


 この『屋敷』と言っても過言ではない大きな家の縁側でゆっくりとくつろいでいたのは……語尾が少しのびている可愛らしい雰囲気の初老の女性だ。


 ――そして、私の祖母である。


 ただ、いくら年齢的に『初老』と言っても、決して背中が曲がっている……とかではない。


 背筋をピンッと伸ばしているそのズ型は、実年齢よりもはるかに若く見える。ただ、髪の色は『黒』ではなく『銀』だ。


 しかし、それが決して『似合っていない』とか『老けて見える』なんて事はなく……むしろ、違和感がないくらい似合っている。


「……」

「どうかしたのかい?」


「いや、なんでもない」

「そうかい?」


「桜……綺麗だね」

「そうだねぇ。咲月ちゃんが来てもう一年以上も経つけれど、今年は桜が咲くのがちーとばかし遅いみたいだねぇ」


 祖母はそう言っているが、その「少し遅れた」のおかげで満開になっている『桜』を見ることが出来た。


 それに、この広大な『庭』とも言える場所にある松などの植物とも合っていいアクセントになっている。


「さて、そんじゃあ夕食の準備でもしようかねぇ」

「……手伝うよ」


 祖母はゆっくりと部屋へと戻っていき、私も少し離れた自宅の玄関へと向かった。


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


「ん?」


 玄関に入ると……ふと目に入った『あるモノ』に、私は思わずその場で立ち止まった。


「どうかしたのかい?」

「……えと。なっ、なんで……玄関に『油揚げ』があるの?」


「ん……? ああ、コレかい?」


 明らかに『お供え物』という雰囲気はあるが、見覚えのない人間が見ると、なかなか驚きの光景である。


「うっ、うん」

「そうか、咲月さつきちゃんはここら辺で伝わる『あの話』を知らないだろうからねぇ。それに、去年は色々あって気にしている暇もなかったんだねぇ。でも、不思議に思っても無理ないさね」


 さすがに祖母も『玄関に油揚げを置く』という事がこの地域に伝わる『ある話』によるモノだという事は知っているおり、私が不思議に思うのも仕方ないと思ってくれていたようだ。


「……」


 どうやら、この『油揚げ』はこの時期、この地域では当たり前の様に玄関に備えられているらしい。


「まぁ、エリカちゃんにでも教えてもらうといいんじゃないかねぇ」

「……そうだね」


 結局、今日は部活動紹介などの準備やテストがあり、バタバタとしてしまい、エリカからその『狐祭り』について教えてもらえなかった。


 ただ、どうやらこの『油揚げ』と『伝承』と今朝見た『狐祭り』は何やら関連がある様だ。


「まぁ、エリカもまた教えてくれるって言っていたし」


 何よりその『狐祭り』にはまだ時間がある。


「よしっ」


 とりあえず、今は祖母の夕食の手伝いだ。そこで私は急いで自分の部屋へと向かった。

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