妖狐
1.経緯 けいい
「ふぁ……」
ここ最近、私は毎朝『寝不足』が続いている。電車から降り、学校に行く道の途中でも、あくびが止まらない。
ただそれは決して「寝付けない」とか「睡眠時間が短い」というワケではなく、なぜか……ものすごく眠いのだ。
「はぁ……」
それもコレもここ最近見るようになった『夢』のせいである。昨日も一昨日も同じ『夢』ばかり見る。
――それにしても、一体なぜ……。
「さーつき! おっはよう!」
「っ……!!」
考え事をしている私の背中を思いっきり叩き、朝にも関わらず大声で挨拶をしてきた野蛮な人間が一人……。
「あっ、あれ? どうしたの?」
「…………」
私が内心「舌打ち」したい気持ちになっているとは知らずに、野蛮な『そいつ』は不思議そうな表情を浮かべている。
「朝からいきなり大声で、なおかつ背中を思いっきり叩かれたら驚くでしょう?」
「えぇ、そうかなぁ?」
「あんたはそうじゃなくても、私はそうなの」
「うーん、私はただ元気づけようと思っただけなんだけどなぁ。ここ最近の咲月は元気がなさそうだったから」
「……」
はぁ、まさか気づかれていたんなんて……。
「それならそれで、もうちょっとやり方を変えて」
「うー、分かったよ」
そう言って少し、ほんの少しだけしょんぼりとしているのは『
高校入学したばかりに行われた席替えで、私の前の席になり、そこからの縁で仲良くなった私の唯一の『友達』だ。
「それにしても、本当にどうしたの?」
「……何が?」
「ここ最近、ずっとあくびばっかりしているからさ。ちゃんと寝ている?」
「寝ているよ? でも、なんか寝た気にならなくてね」
本当にここ最近、あの夢を見た日は大概「よく眠れた!」という気持ちになれず、なぜか「寝足りない」という気持ちになってしまう。
「……そっか」
「うん……」
寝る時間は前と変わらない。寝る前に「何かをしているワケ」でもない。よく眠れていた以前と変わったところはない……はずだ。
――あの『夢』を見る以外は。
「あっ」
なんて考えていると突然、エリカが『町の行事』と書かれている『掲示板』の前で足を止めた。
「エリカ? どうしたの?」
エリカの目線の先には『桜祭り』と書かれたチラシが書かれている。日付はどうやら来週の様だ。
そして、その横には『もう一枚』チラシが貼られている。日付は……その『桜祭り』から一ヶ月後のらしい。
ただ、その『お祭り』の名前は聞き覚えも馴染みも全くない。
「ねぇ、エリカ。この『狐祭り』って……何?」
「えっ、咲月。知らないの?」
エリカは心底驚いたのか「ウソッ」という表情を見ている。
「えっ、ええ」
「あー、でも咲月はこの辺の出身じゃないし、去年は入学したばかりだったから知らないのも無理ないか」
「ごっ、ごめん」
「いいのいいの。この『狐祭り』っていうのは……」
そう説明をしようとした瞬間――。
「ん??」
「って!! 咲月! 時間時間!! 早くいかないと遅刻しちゃう!!」
突然鳴り響いた『学校のチャイム』に驚き、私たちはバタバタと学校の正門めがけて朝から全速力で走り抜けた。
ただまぁ、あの『掲示板』が学校がある坂の下にあったおかげで、私たちは何とかギリギリで遅刻せずに済んだのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――コレは、私が高校生になる前の話である。
「……」
母方の実家……つまり、祖母の家は住宅地が密集している場所から少し離れた場所にある。
一応、電車は通っている。
便利か不便か……の二択を問われると解答に困るところだが……何にしても『徒歩』よりはマシだ。
――私がそんな家にお世話になるきっかけは『祖母』だった。
実は、私の祖父は……私が中学を卒業したつ数日後に亡くなり、その家には祖母だけになってしまった。
でも、祖母がそれに対して『何か』言った訳ではない。ましてや「寂しい」なんて口にもしていない。
しかし、母は「母さん一人だと可哀想だから……」と私に言ってきた。
確かに祖母一人だけでは何かと不便な事はたくさんあるはず……それは理解出来た。
ただ、その時の母のその言葉は『どんな理由でもいいから、私を家から出したかった』と言っている様に聞こえてしまった。
でもまぁ元々、父も母も私に興味……というか、関心が薄かった……どころではなく、下手をすると『ない』とも言い切れるくらいだった。
つまり、母の「祖母が一人で可哀想」は適当な『理由』でしかなったのだろう。
それはもう……幼心ながらにいつも感じており、昔はそれが悲しかったり寂しかったりしたのだが……ある程度の年にもなると『厄介払い』という言葉を知り、それがしっくりきてしまうほどだ。
「…………」
しかし今では、何も感じない。
ただ、ここまで育ててくれた事には感謝しているし、別に恨む事もない。関心も興味もなくて放置されればそれなりに恨む事もあっただろうが、必要最低限の事はしてくれた。
そんな、父も母もそろそろ『二人』でいたかったのだろう。
でも、その仲のいい『二人』の中に『私』という存在は邪魔でしかない。そんな時、祖母が『一人』になった。
そこで二人は私を祖母の家に預け、その家から通える高校を受験する様に言ってのだ。
まぁ幸い、学校生活で何か問題を起こす……なんて事はなかったし、成績も悪くない。それに、仲の良すぎる『夫婦』を毎日見るのも辛くなっていた。
だから、そうこうしている内に、成り行きとはいえ、私の進路はすぐに決まり、引っ越しなどで色々忙しかったけど、それも特に問題なく今に至っている。
色々心配事はあったが、私が寝不足であれば今朝のように声をかけてくれる優しい友人も出来、祖母も元気に過ごしている。
なんだかんだあったが、今はとても充実している……と思える様になっていた。
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