第7話 小町恋歌、幼馴染の少年の死を願うこと

 病院の床をリノリウム製と表現する小説を図書館で借りて読んだことがある。音の響きから、硬質な素材が思い浮かんだ。硬く、鏡のように照明を丸ごと照らし返すような――この床は眩しいほどではないので、リノリウム製ではないのかもしれない。


 小町恋歌は腹立だしいほどに明るい病院の一階ロビーの長椅子に腰掛け、手を合わせていた。指を絡ませていた。祈っていた。ロビーの長椅子にであるからには、何処にあるのかもわからない手術室の中の様子などわからない。だが、未だに手術が続いているのだけはわかる。注射一本、縫合一回で済むような怪我ではないのだ。頭が割れて、血が出ていたのだ。白い骨が見えていたのだ。身体が硬く強張り、不自然な体勢のままで動かなかったのだ。簡単に治せるわけがないのだ。


 常賢が車に轢かれた。

 恋歌が殴ったから。鞄で力一杯殴ったから

 恋歌のせいで。

(常賢……)

 常賢。恋歌の唯一の友人。

(常賢………!)

 恋歌は第一に、彼の無事を祈った。手術の成功を。


 でなければ。


 恋歌は指を解いて、頭を上げた。涙を零すたび、零すたび、頭は不思議とはっきりとしてきた。

 常賢を轢いた車の運転手は動揺していた。彼からすれば、急に常賢が車道に飛び出してきて、避けようが無い状況だったのだ。見通しの悪い道だったため、彼は恋歌が常賢を突き飛ばしただなどとは思わず、人を轢いたという気の動転のままに、彼を近くの病院に運ぶために車を動かした。恋歌も、その車に乗ってここまで来たのだ。おかげで車には車載カメラの設置は無いことを知ることができた。常賢が轢かれたとき、周囲に人はいなかった。誰も、恋歌が常賢を突き飛ばしたせいで轢かれたことなどは知らない。


 だから、恋歌は二番目に祈った。彼が二度と目覚めないことを。恋歌の行為を証言できないことを。死を。

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