寄り添いの探偵曰く、三は危険な数字

うたう

寄り添いの探偵曰く、三は危険な数字

 私を犯人だと思っているようだがね、それは間違いだ。あくまでも私は第一発見者であって、犯人ではない。犯行に用いられたと思われる、血のついた短剣を手にしていたのは、その特徴を調べるためだ。刃の摩耗具合によって、利き手がわかることがある。場合によっては、性別や職業までわかることもある。残念ながら、それを掴む前にこうして拘束されることになってしまったがね。

 早く警察に掛け合って、私を解放するように言いたまえ。たちどころに犯人を捕まえてみせる。どうした? 君も私を犯人だと疑っているのかね?

 よろしい、ではなぜ私が第一発見者たり得たのか、それを教えよう。答えは、探偵としての私の経験則に基づいている。入り口の看板に「三周年」との文字が踊っていたのを君は覚えているかね? それを見た瞬間、私は何かが起きると思ったのだ。そして、その予感どおり、私は血を流して息絶えている男を発見した。

 人々は六や十三という数字を忌むが、本当に気をつけなければいけない数字は、三なのだ。三はかならず、二つ以上の鋭利な刃物を携えている。

 わからないのか? 世話が焼けるな。いいかね、四角形は、方形であれば鋭角を持たない。五角以上の図形も鋭角を作らずに書くことはできる。しかし三角形だけは、どうやっても鋭角が生じるのだ。それも一つではない、二つもだ。

 だからね、我々は、三という数字に気をつけなければいけないのだよ。だいたい何かが起きるのは、三のときだ。夫婦間に危機が訪れるのは、だいたい三年目であるし、店や会社を潰すのは三代目だ。エールを三杯飲むと二日酔いするし、同じことを三度訊ねると決まって嫌な顔をされる。それほど三という数字は危険なのだ。

 つまり、この事件は起こるべくして起きた事件であり、私は探偵としての直感で、事件を嗅ぎつけたに過ぎない。私をこのように縛りつけていては、事件の解決が遠のくばかりだぞ。早く縄を解くように言うのだ。ええい、もういい! 私が直接、説得する。捜査責任者を連れてきたまえ。なに? いない? いないとはどういうことだ!?

 私の勘違い? 私は何も勘違いしていない。三という数字は、本当に危険なのだぞ。事実、殺人事件は起きたではないか。まだ警察を呼んでいないのか? いや、私を解放すれば、別段、警察はいなくても問題はない。すぐに犯人は捕まえてみせる。

 三周年記念公演? 死んでいたのは、舞台役者? 死んでいない? いや、出血していたぞ。シャツが真っ赤に染まっていたし、床にも流れ出ていた。血糊? なんだ、それは? 偽物の血液? 血は、赤い布を用いて表現するのが演劇ではないのか? 今は血糊を使うことがある? ふむ。

 いや、しかし、客なんか見えなかったぞ。これから幕があがるところだった? つまり、なんだ? 私は演劇の進行を妨げたということか。そして、邪魔できないように終劇まで、私は楽屋で縛めを受けていると。君がここにいるのは、連れ合いとして責任持って見張りを務めているからなのか、なるほど……。

 事情は把握した。もう演劇の邪魔をするつもりはないから、縄を解いてくれぬかね? ん? お仕置きとはなにかね? やっとのことで手に入れたミステリー劇のチケットだった? それは悪いことをしたな。だがね、そういうことは、前もって言ってくれないとだな。そもそもだね、私も演劇だと知っていれば邪魔などしなかったよ。

 言った? 恋人のフィオナ嬢が仕事の都合で行けなくなったから、代わりにどうかと誘った。ふむ、覚えていないな。

 私が考えるに、君が楽しみにしていた演劇を見れなかったのも、私がこうして椅子に縛り付けられているのも、おそらく三周年記念公演という魔の空間のせいだな。やはり、三という数字には気をつけねばならんということだ。

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