さんねんぽんた
一白
本文
その日は朝から、みんながそわそわしていました。
ポン太は「なんだろう?」と不思議に思いましたが、どうしてみんながそわそわしているのか、原因は分かりません。
ポン太は、田中さんのお家で飼われているポメラニアンという種類の犬です。
田中さんのお家はお父さんとお母さん、それから娘のサキちゃんとサヤちゃんの四人家族。
サキちゃんとサヤちゃんのお友だちとして、ポン太はやってきたのでした。
ポン太はもともと、佐藤さんという、他の家族と一緒に暮らしていました。
佐藤さんのお家はお父さんとお母さん、息子のリョウ君の三人家族でした。
ポン太はリョウ君のお友だちとして、家族三人で一緒にペットショップへ行って、飼うことを決めたのです。
だけどその佐藤さんは、お父さんの仕事の都合で、海外に引っ越さなくてはならなくなりました。
引っ越し先にポン太を連れていくことは出来なくて、佐藤さんたちとポン太は、泣く泣くお別れしたのでした。
田中さんのお父さんと佐藤さんのお父さんは、同じ会社で働いています。
佐藤さんが海外に引っ越す前から、二人は仲が良くて、家族ぐるみでお付き合いしていたのです。
佐藤さんは、ポン太のことをとても大事な家族だと思っていましたので、田中さんにポン太を預けることにしたのでした。
田中さんの家に預けられたポン太は、はじめての日、「いつ、リョウ君たちが迎えに来てくれるんだろう?」と落ち着きませんでした。
佐藤さんたちが、とても遠い海外へ引っ越したことが、よく分からなかったのです。
十分、二十分、三十分……やがて一日が過ぎても、佐藤さんは迎えに来てくれません。
ポン太は、田中さん家のサキちゃんとサヤちゃんのことも好きでしたが、一番好きなのはリョウ君でした。
これまでリョウ君とは、どんなに長くっても、一日以上、離れたことはなかったのです。
それなのに、二日経ってもリョウ君と会えないものですから、「リョウ君に捨てられたんだ」と悲しくなったポン太は、くうんくうん、と鳴きながら過ごしました。
ご飯も喉を通らず、いつもしょんぼりと尻尾を垂らしているポン太を見て、田中さん一家はとても心配しました。
ポン太の頭を撫でてみたり、ポン太が気持ちよくなれるようにブラシをかけてくれたり、ポン太が好きなおやつを出してくれたり。
ポン太の悲しい気持ちは変わりませんでしたが、サキちゃんとサヤちゃんが心配そうにしている姿を見て、「このままじゃ、いけない」と思いました。
少しずつご飯を食べるようになり、三年経ったいまでは、佐藤さんの家にいたときよりも、少し太ってしまったくらいです。
そうして田中さんの家に落ち着いていたポン太は、朝からずっとそわそわしているお母さんやサキちゃん、サヤちゃんの姿を見て、ハッと思い付きました。
「もしかして、注射の日かもしれない。嫌だなぁ」
ポン太は注射が大嫌いでしたので、そう考えると憂うつで、ケージの奥の方へ引っ込んで、丸くなってしまいました。
そんなポン太の様子を見て、お母さんは「もうすぐだからね」とポン太に話しかけました。
「やっぱり注射の日なんだ!」
ますます丸くなってしまったポン太でしたが、ピンポーン、と、チャイムの音が聞こえると、いつものくせで、玄関まで飛び出していきました。
「誰だ?誰だ?みんなのことは、僕が守るぞ!」
人間の耳には「わん!わん!」としか聞こえませんが、ポン太は必死に、玄関の外にいる人に叫びます。
そして、ガチャリ、とドアが開く音がして、外から入ってきたのは───
「ポン太!ただいま!!」
なんと、海外にいるはずのリョウ君でした。
リョウ君の後ろでは、佐藤さんのお父さんとお母さん、それから田中さんのお父さんが笑っています。
「リョウ君だ!リョウ君だ!!」
ポン太は嬉しくて嬉しくて、リョウ君が開いた腕の中に、勢いよく飛び込みました。
そう、今日は、佐藤さん一家が帰国する日だったのでした。
朝から田中さん一家がそわそわしていたのは、いつ佐藤さんが訪ねてくるか、期待しながら待っていたからなのです。
大好きなリョウ君と再会できて、ポン太は幸せいっぱいにニコニコ笑います。
「お父さん、見て見て。ポン太も僕のこと覚えててくれたよ!」
ポン太をわしゃわしゃと撫でながら、リョウ君は嬉しそうに笑いました。
「もう置いていかないでね」という想いを込めて、ポン太はリョウ君のほっぺたをペロリと舐めました。
さんねんぽんた 一白 @ninomae99
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