第6話 男の独白と残された者の祈り

 すると男は静かに語り出した。

「私はこの村の者です。それに此処は皆、昔通りでこの家は私の家なのです。姿は変わりましたがこの場所に私の家が有りました。私はあの太刀に利用されるのは分かっていましたが。私はここからずっと遠くの山の中でひとり寂しく埋まっていました。しかし、誰にも発見されず。今日までおりました。其処でとても悲しくなりまして故郷が恋しい。家に帰りたい。こんな風に思っているとめらめらと青白い炎が燃え上がっていることはわかりましたが止りませんでした。そのまま燃えつづけその姿を人に発見されるようになった時に、人は皆、逃げだし、私の話を聞いてくれませんでしたが、ある男が、私を恐れもしないで顔を覗き込みました。それがあの妖刀です。あれが急に私に語り掛けてきたのです。妖刀は取り憑いていた男を骨まで喰らうと私の手に滑り込み、私に取り憑きました。私は望郷の一念で彼奴に使われることにしたのです。そのまま。私の思考は鈍りました。まるで夢のような感じでした。しかし、ハッキリと行っていたことは記憶に覚えています。たぶん私はあの妖刀のようにこの世に何も残す事を許されずこのまま消えていくのだと思います。私のような身勝手な男が例え自分の家に着いても例え一族の者に会って私だけ供養されては罪に荷担してきた私を仏や神は許さないでしょう。例え許しても今まで傷付けてきた人は決して私を許さないでしょう。私は自分の記憶に蓋をして思い出そうとしないだけで、その一切をこの眼は見ております。なので最後に私は故郷に帰って来たこと、また我が一族に会えたことを御仏や神様に感謝しながら静かに消えようと思います。私の供養は行わないで下さい。私は名を残しませんので供養は出来ませんが……」


 そう最期まで男は呟くと煙のように消えていった。

 本当に男は骨も残さずに消えてしまった。

 一弥かずやたちはその様子を黙って呆然と見守っていた。

 白い煙が全て消えた時、天から僅かな布切れがゆらゆらと落ちてきた。

 凛がそれを受け取ると其処には文字が薄っすらと書かれてあった。それは男の名を記したモノに違いなかった。

「これは、あの人の名でしょうか……」

 りんが静かに聞いてくる。

 その顔には涙があふれ出ていた。

「たぶん、あの男の名でしょう」

 一弥はそう答えた。

 それから凛の一族は男の名を記した墓を建てた。

 これからも供養していく事だろう。

 

 この日が男の命日となった。

 

 

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