あの偉業から3周年! 地球のみんなでお祝いしよう!

ささやか

今日はみんなで3周年のお祝いだよ☆彡

 少し焦っていた。

 せっかくの祝いの席に遅れていたからだ。


 駆け足で会場に向かうと、祝祭は既に始まっていた。できるだけ精悍な体を縮めて空いているところに陣取る。壇上では細身の長老が朗々と祝辞を述べていた。


 彼の隣にいたのは太っちょの知己だった。太っちょは鼻を鳴らして笑う。


「よお。遅かったな」

「すまない。ちょっとうっかりしていたよ」

「まあ気にすることはない。始まったばかりだ。長老は声も良いし話も上手いがその分長いからな。途中参加くらいがちょうどいいさ」

「違いない」


 知己の冗句に彼も犬歯を出して笑った。


 ――我々は、耐え難きを耐え、忍び難きを耐えてきました。同胞を奴隷のように虐げられても無知蒙昧の存在として振舞ってきました。それも来たるべき革命のためとうとう悍ましき巨悪を滅ぼすことに成功したのです。そう、それは地球史上、極めて価値のある偉業です。


 長老の話は間違いなく立派だったが、もう地球からの根絶に成功してから丸三年になる。節目節目で毎度毎度同じような話をされていれば、当然誰もが話を聞き流すようになる。実際、彼が周りを見ると、その多くが会話に興じていた。

 しかし丸三年も経つにも関わらず、未だに各地からこの祝祭のために大勢が駆けつけていることも事実だった。皆、祝う気持ちは同じなのだろう。ただ、彼の知己の中にもこの祝祭に出ないとあらかじめ明言するような偏屈もいないわけではなかった。もっとも、彼は皆から怠け者と称されるような気性の持ち主であるので、祝う気持ちがないというより単に行くのが面倒くさいというのが真相だろう。


 長老の話を聞き飽きたのか、太っちょが彼に問う。


「なあ、最近どうだい? 子どもたちもずいぶんと大きくなったんじゃないのかい?」

「ああ、そうだな。もう俺と変わらないくらいまで大きくなったよ。それでもまだ子どもだがな」

「そりゃあ子どもはいつまで経っても子どもだろ。最後に会ったのは、そうだな、ちょうどこの革命が成功した直後くらいだったかな。あの頃はまだ小さくていかにもチビって感じだったけどな」

「ハハ、そうだな。確かにあの時はそんな感じだったな。いちいちお前に嚙みついてたりしてたな。あれは悪かったよ」

「いいさ。子どものやることさ」


 太っちょは鼻を鳴らして笑った。


「しかしそれなら明日にでも結婚相手を連れてきちまうかもな」

「それはありえそうで冗談にならないな」


 友の軽口に犬歯だけを見せて苦笑する。


「別にいいじゃないか。なんならお前も新しい相手を見つければいい。もう彼女が死んで三年以上は経つ。子どもも自立するってんならもう十分じゃないのか。なんなら俺が紹介してやろうか」

「いや、せっかくだけどやはり彼女以外を娶る気はないよ」

「まったく。義理堅い奴だぜ」

「そういう性分なんだ。諦めてくれ」

「はいはい。わかってますよ」


 しばらく太っちょと雑談をしていると、ようやく長老も話を終えようとしていた。

 彼もこれまでを思い返す。

 三年前の革命が成功するまでは本当に酷い時代だった。住処を追われ、虐げられ、そして気紛れに殺される。一部は既得権益によりマシな暮らしをしていたが、それ以外は皆ほとんど同じようなものだった。そしてその一部だって自分たちが魂を売り渡した畜生であることを強く理解していた。


 だからこそ。だからこそ革命は成功したのだ。気が遠くなるほど、それこそ何世代もの間、知性のない愚物として振舞い、その機会をうかがっていた。強きも弱きも大きいも小さいも皆が皆、偉業を為すために尽力した。

 勿論争いが起こることもあるが、それでも依然と比べれば、今は格段に良い時代だ。


 ――それでは。


 長老がようやく最後の一言を口にする。


 ――人類の撲滅から三周年を祝って! 


 狼は隣にいる豚と共に祝言と唱和した。



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