一つの節目の物語
けんざぶろう
結婚記念日
いつもより、早く仕事を終え。 妻が欲しがっていたアクセサリーと、予約していたケーキを購入し帰路につく。 今日は結婚3周年である。 狭くも楽しい我が家に到着し、妻が発した一言目は――
「ねぇ私たち、離婚しましょう」
――結婚記念日に浮ついていた俺の気持ちを一気に突き落とす、インパクトが強すぎるセリフであった。
***
「なあ、結婚記念日に離婚を迫られた気持ちがお前に分かるか?」
「分からん!! とりあえず嫌なことがあったんだったら飲んで忘れろ」
笑いながら対応してくるコイツは学生来の友人である。 誰でもいいから、この気持ちを吐き出したい欲求から、連絡を取ったら飲みに行くぞと有無を言わさず居酒屋に連れてこられた。
「でも良かったじゃないか。 自分の都合で離婚したがってるからって理由で、遺産分配とか慰謝料とか請求されなかったんだろ」
「そういう問題じゃねぇよ!! つーか結婚記念日すら覚えてなかったみたいだし……俺は、何のために頑張っていたんだか分からなくなっちまった」
「あー。 おまえ確かに奥さん大事にしてたもんな。 結婚してから人が変わったように仕事人間になったしな。 ちなみに、離婚したい理由って何だったんだ?」
「仕事ばかりで構ってくれないから愛が冷めたって言ってた。 もっと大事にしてほしかったらしい」
「裏目に出たパターンか、辛いな」
せめて家族に貧乏させないようにと頑張った結果がコレなのだ。 全くもって笑えない。
「とにかく、すぐに決められることではないから保留にしようって言ったら実家に帰っちゃうし、俺マジでどうすればいいんだよ」
泣き叫ぶようにコイツにストレスを吐き出す。
「いや、離婚しかないだろ。 結婚って片方の気持ちが覚めたら、それで終わりだぞ? 復縁するなんて無理無理」
普通ならば、慰めたりとか、その場しのぎの言葉を発したりするだろうが、コイツは笑いながらもきちんと考えてくれているのだろう。 無慈悲に現実というものを突き付けてくる。
「……やっぱりそうなのか?」
自分でも理解していただけに、コイツの言葉を受け入れる。
「当たり前だろ、俺は結婚してないし男だから分からんが、女って気持ちが切れてる相手と同じ空間にいるだけで苦痛らしいぞ、一緒に生活するなんて論外だろ」
「……マジでかぁー」
友人からの言葉を聞いて、自分は最近、妻とどうだったか記憶を掘り起こす。 新婚当初は、どこに行くでも一緒だった妻だが、確かに言われてみれば、最近一緒に行動した記憶がない。 まさか、それが離婚のサインだったとは。
「気を落とすなって……言っても無駄そうだな、とりあえず飲めよ、この場は俺がおごってやる」
「すまねぇ。 でも気持ちを切り替えるのは無理そうだ……すまん」
「かまわんかまわん。 俺だって同じ状況ならへこむだろうし、とりあえず今日は食って飲んで忘れろ、すいません店員さん生二つ追加で!!」
その後は、弱音を吐いては、コイツが酒を注文するという謎のループが出来上がった。 泥酔して消えゆく意識の中で、俺のつまらない愚痴に笑い飛ばし真剣に答えてくれるコイツの存在が俺の中で大きくなり、良い友人を持ったと思いながら俺は泥酔しながら深い眠りについた。
一つの節目の物語 けんざぶろう @kenzaburou
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