山田式部少輔有親⑬高砂国東部の征服

◇山田式部少輔有親


 昨年の冬に、馬路玄蕃殿がオスマン帝国への使者の務めを果たし、高砂国へ戻ってきた。

 しかし、馬路玄蕃殿はオスマン帝国の役人や技術者たちを連れ帰ってきており、その対応に追われることとなる。

 オスマン語を話せる通訳を介して、彼等の対応をせざるを得なかったが、高砂国の奉行である俺以外に決定権は無いので、あらゆる案件が俺の元へ届いてきた。

 だが、馬路玄蕃殿が高砂国に今頃は、玄蕃殿にも高官として権限が与えられているので良かったが、玄蕃殿が日ノ本の殿の元へ報告に向かってからが、本当の意味で大変だったことを思い知ることになる。


 オスマン語を話せる通訳には、馬路玄蕃殿ほど権限が与えられて無いため、玄蕃殿で判断出来た案件も俺の元へ届けられる様になったのだ。

 それに加え、日ノ本の殿からは、オスマン帝国の技術者から日ノ本の技術者に技術を伝授してもらう様にとの指示を受ける。

 技術者の間での伝授については、大筋は馬路玄蕃殿やオスマン帝国の役人のリュステム殿と話し合っていたので、始まりは良かったが、段々と問題も起きてくる。その対応に追われるのが大変であったし、馬路玄蕃殿が不在のため、双方の考えが相手に上手く伝わらないことが多々あった。

 しかし、オスマン帝国の作事方の技術者が湿地の干拓を手伝ってくれたお陰で、我々だけで行っていた時より普請が進む様になる。

 当方の作事方の者の話を聞けば、日ノ本では知られていない技術などがあるらしく、彼等の技術や知恵から学ぶことが多いそうだ。

 反対に、木造建築などでは日ノ本の方が優れているところがある様で、神宮から派遣された宮大工が色々教えている様である。

 あらゆる技術で、当方の方が伝授されることが多いが、日ノ本や唐土の知識などオスマン帝国の技術者が知らないこともあるらしく、当方から伝授したりして、互いに学んでいる様だ。

 最近では、鶏籠の湊にはオスマン帝国の技術者が見たこともない建物を建てている。

 鶏籠は日ノ本とオスマン帝国の物が入り交じった町になりそうだ。



 馬路玄蕃殿が日ノ本から帰って来たことで、オスマン帝国の人々の対応を任せることが出来るようになり、俺や高砂国奉行所の者たちは徐々に落ち着きを取り戻していた。

 馬路玄蕃殿が戻ってくるのが思っていたより遅かったが、長年の異国での生活から、殿より家族と過ごす時間を給ったらしい。馬路玄蕃殿の苦労を思えば、致し方ないことだろう。


 高砂国は開拓で忙しいため、高砂軍は高砂国西部では無く高砂国東部の部族を攻め取ることにした。

 高砂国西部は広大な平野なため部族の人数も多く、倭寇の根城もあるため、今の戦力では征服しても維持するのが難しい。

 そのため、南蛮交易の海路がある高砂国東部の方が部族の人数も少なく、土地も狭いため維持しやすいと判断し、攻め取ることにしたのだ。高砂国東部には倭寇の根城も無いしな。


  高砂国東部を攻める高砂軍は、薩摩武士に加え、泰雅(タイヤル)族と噶瑪蘭(クヴァラン)族の兵士たちで編成した。

 泰雅族や噶瑪蘭族たちから高砂国東部の部族たちの話を聞くと高砂国東部の部族は大人しくあまり強く無いらしい。

 泰雅族は首狩りに襲ったりしていたそうで、東部な部族は泰雅族をとても恐れているそうだ。


 高砂軍は海軍の船に乗り、高砂国東部へと向かう。この遠征には、何故かオスマン帝国の役人のリュステムやその部下たちも付いてきている。馬路玄蕃殿が通訳として共にいるが、玄蕃殿に話を聞くと、オスマン帝国の役人たちは我等の戦いを見たいそうだ。高砂軍の訓練はよく観にきているらしいが。

 リュステムに何かあっても守れないと伝えると、リュステムたちはオスマン帝国では軍人だったそうで、戦いも出来るので心配しないでくれと言われた。

 こうして、変な同行者とともに、高砂国東部の船を泊められそうな平野へと到着することになる。


 高砂国東部に船で近付く我々を東部の部族らしき者たちは眺めていたが、上陸した我々を算を乱して逃げ出した。

 仕方ないので、海岸近くに陣地を築くとともに、部下に噶瑪蘭族と泰雅族の通訳兼兵士を連れて、近くの集落へと使者に赴かせる。

 暫くすると、部下が現地の部族の長を連れて戻ってきた。酷く怯えた様子なので、通訳を通じて話を聞くと泰雅族が恐ろしいらしい。

 噶瑪蘭族の通訳を通じて恭順を促すと、彼は争いを好まない部族だそうで、我々に従う旨を示した。

 そこからは、戦をすること無く、恭順した部族の長を通じて、各部族に使者を送ると、続々と恭順していく。使者には泰雅族も混ぜていたので、話は上手くすすんだ様だ。

 今回、支配下に置いた部族は、自分たちのことを「パンツァハ」と呼んでいるらしい。俺はパンツァハの領域にも奉行所を置くことにした。


 こうして、高砂国東部の部族を支配下に置いたが、パンツァハたちの話を聞くと、更に南に他の部族がいるらしい。

 その部族たちはパンツァハとは異なり、好戦的で強い部族だそうだ。

 高砂国南部の部族も支配下に置きたいが、高砂国の統治もあるので、今のところは難しい。

 出来ることなら、来年には高砂国南部の部族たちも支配下に置きたいところである。

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