リュステム②ゲンバの帰還

◇リュステム


 ゲンバがワクワク(日本)に向かってから数ヶ月後、ゲンバが漸くタカサゴに帰還した。

 ゲンバはワクワクに戻ってマサヨシに報告をした後に、休暇を貰って家族たちと過ごしていたらしい。

 数年の間、家族と離れて異国で過ごしたことを思えば、仕方ないのだろうが、ゲンバがいないことで不便なことが多かった。

 決して、自身が奴隷としてオスマン帝国に売られた境遇から、ゲンバに嫉妬した訳では無い。



 ゲンバが不在の間、アリチカ・パシャからタカサゴの技術者たちに技術を教えて欲しいとの要望があった。

 今回、帝国から連れてきた技術者の多くがイェニチェリ出身者である。土木建築関係はイェニチェリの工兵出身者であり、タカサゴの湿地を干拓しているのを視て、口を出したそうにしていた。

 ワクワク人の通訳の数も制限されるため、日取りと時間を決めて、技術の伝授を行うことする。

 まずは、土木建築と医術から伝授することになった。しかし、それ以外の技術についても、通訳無しで帝国の技術者の作業を見学することを許している。



 ゲンバがワクワクから戻ったことで、アリチカ・パシャやタカサゴ総督府とのやり取りが円滑になった。

 やはり、高官として権限を有しているゲンバがいてくれた方が取り決めするのも早くて済む。

 ゲンバが戻った分、アリチカ・パシャとの通訳を他の技術者に回せる様になる。

 また、ゲンバからはガラス加工の伝授を頼まれ、弟子入りする者をワクワクから連れてきていた。

 帝国でもガラス加工は重要な技術なのだが、ワクワクやタカサゴなど帝国から遠く離れた地ならば帝国に与える影響も少ないだろうということで、パーディシャー(皇帝)はマサヨシからのガラス加工の技術者派遣の願いを聞き入れている。

 通訳をガラス職人に付きっきりにする訳にはいかないので、ガラス職人に弟子入りした者には、オスマン語を覚えつつ学んでもらうことになった。


 ワクワクからやってきた職人たちに技術を伝授していた技術者たちに話を聞くと、彼等もワクワクの職人から得るものがある様だ。

 土木建築を伝授している者は、帝国のやり方で干拓を教えたり、石の加工技術を教えているとのことであった。しかし、木造建築や木材加工の技術は高く、ワクワクの神殿を作っている大工たちの技術力は高いそうで、帝国の職人も学ぶことがあるそうだ。

 医術についても、ワクワクの医師はスィーン(中国)の医術に長けているらしく、帝国の医師はイスラム医術を教え、スィーンの医術を学んでいるそうで、双方に得るものが多いとのことである。

 その他も帝国の技術者から技術を伝授することが多いが、ワクワクの職人たちから学べることもあるらしく、東と西の技術の交流が見受けられ、帝国にとっても良い方向に作用することを願っている。


 帝国の技術を得たことで、タカサゴは徐々に発展しつつある様でケーランの港町も賑わいを見せるとともに、帝国の土木建築の技術者たちによって、帝国風の建物が建ち始めていた。

 マサヨシからタカサゴは地震が多いので気を付ける様に指示されているそうだが、帝国の領土であるアナトリアも地震が多いので、それなりに地震に気を付けた建物を建てている。


 ゲンバが戻ってきたことで、タカサゴでの活動がしやすくなったが、ワクワクにはまだ向かえない様だ。

 マサヨシの領地の近くで、仏教の一派が紛争を起こしているため、ムスリムである我々に何かあったらいけないと判断しているとのことである。

 また、我々のために屋敷とモスクになる建物を建ててくれるそうだ。

 マサヨシの領地周辺が落ち着くまでは、タカサゴで活動せざるを得ない様だな。

 帝国のためにも、マサヨシの勢力を大きくさせるため、タカサゴにいる間は、この地の発展を手助けするとしよう。

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