リュステム
◇リュステム
私がタカサゴと言う地に来て、そろそろ一年になろうとしている。
タカサゴでの扱いは悪くは無い。オスマン帝国から派遣された官僚として、屋敷とモスクの建物を提供されており、タカサゴのパシャ(総督)であるアリチカとの関係も良好だ。
アリチカ・パシャは寡黙ではあるものの、有効な人物であり、蛮族が住まい、疫病が蔓延っていたタカサゴと言う大きな島の開拓を指揮していたのは、彼だそうだ。
しかし、彼は傲ること無く、アミールのマサヨシから独立すること無く、従っている。
アリチカ・パシャの話では、タカサゴの開拓もマサヨシから託された知恵によって為したことであり、故郷に居場所を無くした彼等を拾ってくれた恩人だそうで、裏切ることなど考えていない様だ。
ゲンバの話では、ワクワク(日本)のアミール(大名)や小領主は裏切ることも平然とやるそうなので、アリチカ・パシャの気質なのだと言う。そのため、アリチカ・パシャに従うサツマの戦士たちも、アリチカ・パシャの様にマサヨシに逆らうことが無い様だ。
ゲンバから、名を直接呼ぶことは諍いの種になると教えられているので、アリチカ・パシャと話すときは、ヤマダ・パシャとかシキブノショーと呼んでいる。
しかし、姓とパシャ号を合わせるのは違和感を感じるし、ワクワクの役職の自称で呼ぶのも難しいので、心の中ではアリチカ・パシャと呼んでいるのだ。
アリチカ・パシャの主君であるアミールのマサヨシは、カネヤマドノやカネヤマ・パシャと呼んでいる。カネヤマとは、マサヨシがワクワクで治める領地の呼び名だそうだ。
マサヨシはワクワクでの役職を自称していないため、家臣や臣従する小領主たちはカネヤマドノと呼ぶようにしているらしい。
我々にはよく分からない文化であるが、パーディシャー(皇帝)から、ワクワクの習慣に合わせる様に指示されているので、彼等の文化に合わせる様にしている。
タカサゴは、ここ数年で開拓を始めたそうで、お世辞にも立派な町などある訳では無い。まだまだアリチカ・パシャに従わない蛮族も多いらしく、スィーン(中国)やワクワクの海賊たちの根城もあるらしい。
海賊たちの根城がある地域は、今のところ避けて開拓をしているそうだが、マニラやブルネイへ至る海路は、海賊たちのいる地域を通らないそうなので、今のところ問題無いそうだ。
そんなタカサゴは、海軍の力が強力であり、海賊たちやポルトガル人の船を襲って、船を奪っている。
スィーンやワクワクの海賊やポルトガル人は、特別な知識が無ければ奴隷として酷使されていた。反対に、タカサゴにとって有益な知識を持つ者は、タカサゴに協力したり従うことを条件に、奴隷としての扱いを免除されている。
ポルトガル人の船長や航海士の中には、奴隷として糞尿を運ぶ汚物運搬をさせられたり、タイヤル族の首狩りに使われるのを恐れて、タカサゴに従う者が多い。
そう言ったポルトガル人の中には、リューキューの女奴隷を妻にし、カトリックの教えを捨てた者もいるそうだ。
ゲンバがマサヨシへ報告をするため、ワクワクへ一時的に帰国している。ゲンバがいない間は、オスマン語を話せる文官が対応してくれた。
しかし、ゲンバほど権限がある訳でも無いので、いちいちアリチカ・パシャと文官の通訳を通じて話をしなければならないので不便である。
ゲンバには、早く戻ってきてもらいたいものだ。
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