蝦夷地にて小樽・石狩交易所を開設
晩秋になり、蝦夷地へ交易に赴いていた東天竺屋の商人たちが、報告のために兼山へとやってきた。
彼等は、普段は直江津の拠点で活動しているが、蝦夷地に昨年赴き、交易の手応えを感じていたため、今年から本格的に交易を始めている。
そのため、追加で二隻のジャンク船を直江津へ送っていた。船を日本海側まで運ぶのは、遠回りなので大変だと海軍の者たちから嘆きの声が上がっていたが。
三隻になったジャンク船を使い、東天竺屋直江津支店の者たちは、日本海交易に参加をする。
わしの要望である蝦夷地に拠点を作ることも大きな目的であり、昨年訪れた小樽と石狩に本格的に交易所を作る予定だ。
小樽と石狩の交易所設置については、昨年に東天竺屋が赴いた際に、召し抱えた蝦夷の通訳を通じて、許可を得ている。
現地の蝦夷たちからは、南の倭人の様に阿漕な商売をしないことを条件に認められており、当方も道南の国人たちの様なことをするつもりは無い。
春の中頃に直江津支店の者たちは、蝦夷たちが要望する品々を積んで、蝦夷地の小樽と石狩へ向けて出発した。
この船には、当家の大工を乗せており、越後で買い付けた奴隷も労働力として積載していたそうだ。
蝦夷地までの途中の湊でも交易し、小樽と石狩へ到着すると、まずは当家の蝦夷の通訳を下ろし、現地の蝦夷と接触を図った様である。
現地の蝦夷も直江津支店の者たちのことを覚えていたらしく、歓迎してくれたそうだ。
前回に訪れた時に、交易所の設置許可を貰っていたことを話し、予定通り交易所を開設しても良いかを再度確認すると、是非とも開設して欲しいと要望される。
前回、現地の蝦夷たちに交易所設置のための木材が必要なので、木を伐っておいて欲しいと要望していた。
そのため、直江津支店の者たちが越後に帰った後、現地の蝦夷たちは木を伐っておいてくれたそうだ。
直江津支店の者たちは、連れてきた大工たちに交易所や家、湊を整備する。今回は船に煉瓦を積んでいるので、防寒性の高い建物を作るつもりだったそうだ。
大工たちには、わしが煉瓦作りの家について情報を与えているので、建物作りは難渋していなかったものの、実際に冬を経験していないので、どうなるかは分からないらしい。
大工たちが建物を建設している間に、直江津支店の者たちは現地の蝦夷と交易をしつつ、奴隷を使って交易所の側に黍、粟、稗の畑を作らせて、農作が可能かを試したそうだ。
結論から言うと、黍、粟、稗を栽培することは出来たらしい。蝦夷地でも農耕は可能な様だ。
現地の蝦夷たちは、農耕をするよりも毛皮や鮭を手に入れて、倭人に売って、倭人たちから米を買った方が良いと思っている様で、農耕にはあまり乗り気では無いらしい。
オスマン帝国からヨーロッパの寒冷地の麦の種籾を貰っているので、蝦夷地に入植出来たら、ヨーロッパの各種麦を栽培するのが良さそうだ。
小樽・石狩の両交易所は段々と利用する蝦夷が増えた様だが、日本語を話せる蝦夷が少なかったらしく、当家の蝦夷の通訳が現地の蝦夷たちに日本語を教えたりする光景が見受けられたらしい。
直江津支店の者や大工、奴隷と交流する間に、蝦夷も日本語を僅かながら理解し始めたそうだ。
その後、何度か直江津と小樽・石狩を往き来し交易を行い、両交易所は徐々に栄え始めた様だが、北の方の留萌や稚内辺りの蝦夷も来るようになったそうで、留萌や稚内にも交易に来て欲しいと要望されたらしい。
実際に、直江津支店の者たちは、留萌と稚内を訪れ交易をしたそうだが、その際に現地の蝦夷たちから交易所の設置を認めてもらったそうだ。
交易所設置のために、木を伐っておく様に頼んだそうで、来年には留萌と稚内に交易所を設置したいので、許可してくれた頼まれた。
秋が過ぎ、直江津支店の者と大工は直江津に帰ることになったが、直江津支店と大工の一部を残し、越冬が可能か試すことにしたそうだ。これには、越後で買い付けた奴隷も含まれている。
防寒具や防寒の処置については、召し抱えた蝦夷たちの知識に加え、わしの21世紀の知識を活用して、様々な防寒具を開発していた。今回の越冬は、防寒具の検証も兼ねているそうだ。
東天竺屋で召し抱えた蝦夷たちも残ってくれたそうで、もし当方が準備した家や防寒具で冬を越せなそうだったら、現地の蝦夷たちに助けてもらうつもりらしい。
こうして、今年の蝦夷地との交易が終わったが、当家にとっては大きな一歩と言える。
防寒具や防寒対策を施した家が使用可能だと判断出来れば、今後の当家の勢力拡大に大いに寄与することは明白だ。
道南の国人たちと蝦夷の様に関係が悪化している訳では無く、現地の蝦夷と当方の関係は良好である。これはヨーロッパの北米進出で原住民と交易を始めてから、徐々に進出した歴史を参考にしていた。
ヨーロッパ人たちみたいに酷いことをするつもりは無いが、可能ならば越後などの寒冷地の奴隷を入植させて、高砂国の様に当家の領地にしたいと思っている。
今回の小樽・石狩交易所の開設は、当家の蝦夷進出において、大きな足跡を残したと言えるだろう。
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