秋の北伊勢情勢

 秋になり収穫を終えた後も内政に勤しんでおり、わしの周辺は穏やかな日々を送っているが、諸国の情勢は様々な出来事が起こっている様だ。


 今年の六月に、我が叔母を妻に迎えた足利義晴が、六角定頼・義賢父子の後援を得て、細川六郎と和解したことで、九月に帰洛している。

 我が叔母と足利義晴の婚姻は、祖父の近衛尚通の正室である祖母は徳大寺家出身であったため、細川高国と縁戚関係であった。

 そのため、細川高国の仲介で、足利義晴と叔母の婚約が成立する。

 しかし、大物崩れで婚約を仲介した細川高国が討たれてしまうが、足利将軍家と近衛家の利害の一致から婚姻が行われたそうだ。

 足利義晴が帰洛したことで、六角定頼の懸念事項も一つ減り、その目は北伊勢に向けられていることだろう。



 足利義晴の帰洛と同時期ぐらいに、長島一向一揆勢は六角氏の影響下にある北伊勢西部へと攻め入っている。

 しかし、北伊勢西部の北方一揆勢を掌握するために置いて六角氏の援軍が、六角氏方の北伊勢国人たちとともに迎撃し、長島一向一揆勢を退けた。

 六角方の軍勢は、そのまま北伊勢東部の長島一向一揆が支配する地域を行軍し、示威行為をした後に、北伊勢西部に戻っていったそうだ。

 以前も北伊勢東部に侵入して示威行為をしていたが、今回は長島一向一揆勢を破った後に、敗軍を追い掛けて侵入しての示威行為なので、北伊勢の情勢に更なる影響をもたらすことだろう。

 六角定頼も足利義晴を帰洛させ、多少は余裕があるだろうから、近江から軍勢を率いて北伊勢に侵攻する可能性もあるかもしれないな。



 美濃国においては、寺領を押領された実淳派の寺や鎮圧された一揆勢を見て、願証寺派の門徒も危機感を募らせていた。

 しかし、西美濃国人衆が北伊勢で敗北したことで、土岐頼純派の国人たちが勢い付く結果になっている。

 そんな中、負けたことで苛立った西美濃の国人たちと願証寺派の門徒が揉め事を起こしているらしく、一部の願証寺派の門徒が一揆を起こし始めているらしい。

 願証寺は西美濃の門徒宥めつつ、土岐頼芸様に国人を抑える様に要請したそうだ。

 西美濃国人衆の一部からすれば、願証寺派も北伊勢の長島一向一揆衆と大して変わりが無いのかもしれない。

 一部の国人衆は、北伊勢で被った被害を補填するため、願証寺派の寺領を押領しよう考えた様だ。

 願証寺派の門徒と揉めた一部の国人たちは、養父の長井新九郎や西美濃の有力国人が実淳派の寺領を押領したのを真似しようとした様だが、願証寺派は実淳派と違って西美濃で一揆を起こしていた訳ではないので、西美濃で問題になっているらしい。

 養父や有力国人は多少の道理を弁えているのか、手を出していない様だが、このまま願証寺派まで敵に回すのは不味いだろう。

 土岐頼芸様と養父が、どう出るか見物だな。



 尾張国では、市江島の服部党が、たまに蟹江を襲撃したり、蟹江に向かう船を襲っている様で、織田家と佐治水軍は忙しそうにしている。

 市江島に攻め入りたいものの、輪中を攻めるのは難しいため、防衛に専念せざるを得ない様だ。

 服部党のせいで、交易に支障が出ているので、何とかしないといけないだろうな。



 北伊勢の長島一向一揆を中心とした争乱は、引き続き続いているが、取り分け西美濃の情勢に注意を向けておく必要がありそうだ。 

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