栄子の懐妊と兵の返還と木曽中務大輔の来訪

 春が近付き、栄子がまた懐妊したとの知らせを受ける。頑張っているから、懐妊してしまうのは当然なのだが、どんどん子が増えておるな。妻たちは懐妊させておけば、そんなに小五月蝿いことを言わないので、懐妊させておくに限る。


 薩摩や関東で買い付けた奴隷から、見目麗しい女子を妾兼女優として囲っておるが、妻たちが懐妊している間に、性欲処理を兼ねて愛でていると何人かが孕んでしまっていた。

 なるべく、孕ませないようにしてはいるのだが、当たってしまうのは仕方ない。

 妾の子であるが故、継承権を持たせるつもりは無い。妾たちが住まう「鹿の苑」にて育てている。


 鹿の苑では、妾の女子たちに演劇をさせており、妻や我が子たち、妻に仕える女房などの家族の男性を除いて、基本的には女性しか観劇出来ないようにしていた。

 『ロミオとジュリエット』の様なシェイクスピア擬きや○塚擬きの劇をさせているのだが、意外と面白い。

 一緒に観ている女衆たちの評判も上々で、妻や女房たちは結構観たがるのだ。


 薩摩や関東で買い付けた奴隷の中で、見目麗しい男女にも演劇をさせている。こちらの女子は、わしの好みでない者ばかりだが、家臣たちの評判は良く、憧れの的らしい。しかし、わしが所有する奴隷なので、手は出せないそうだ。

 こちらも、「鹿の苑」の様に21世紀の頃に流行っていた様な演劇をさせているが、男女身分関係無く、銭を出せば観れるようにしている。

 娯楽の少ないの乱世では貴重な娯楽であり、兼山周辺から人が集まって観に来ている様だ。

 能やら猿楽とは趣が異なるらしく、中々の評判だそうだ。わしは、能も猿楽も良くわからないので、わしがやらせている演劇を観ている方が面白い。



 実淳が長島一向一揆を起こしたため、伊勢国・尾張国・美濃国は一向一揆の危機に曝されている訳だが、養父の長井新九郎から兵を返還する様に求められた。

 わしが兼山の領主になった時に、養祖父から約二千の兵を預けられたのだが、西美濃に兵が必要であり、東美濃の脅威も無くなったことから、返す様にと言うことであった。常備軍や雑兵を集めても、領地を維持する兵はいるだろうと言うことである。

 これには、困ったものだ。戦で数は減ったとは言え、約二千の兵を返してしまえば、府中小笠原家を攻めることが出来ない。

 しかし、返さない理由も無いので、返さない訳にもいかないのだ。

 黒田下野守と相談し、平井宮内卿とも書状を交わしたところ、府中小笠原家攻めは諦めて、養父に兵を返還することになった。

 養父から預かった兵を維持する費用が負担として大きいので、黒田下野守も平井宮内卿も早く返還したかったそうなのだ。

 費用がかかるなら、当家のやり方で訓練や運用が出来る常備軍や雑兵を増やした方が良いと言う意見である。

 こうして、養父に約二千の兵を返還することになったのであった。



 当分の間、府中小笠原家攻めは諦め、兵力の拡充を目指すこととなる。府中小笠原家攻めを計画する前の様に、今年は大人しく力を蓄えるべきの様だ。

 臣従している木曽氏にも、今年の府中小笠原家攻めは取り止める旨を伝え、騒がせた謝礼に色々と品物を贈っておいた。


 兼山にて政務を執っていると、木曽氏に送った使者が戻ってきたのだが、木曽氏から嫡男の木曽中務大輔義康殿を伴っていたのだ。

 謝礼に贈った品々への返礼に訪れたらしい。当家にとっては些細な謝礼であったのだが、木曽氏にとっては結構なものであったらしい。

 木曽中務大輔殿の来訪で、宴を催すこととなったのだが、木曽中務大輔殿も父親の木曽左京大夫殿と同じ様に、当家の宴料理を喜んでくれた。

 当家から食材などを融通しているため、木曽氏の食生活も大きく改善されたそうだ。

 しかし、東天竺屋や忍衆の話では、木曽谷の食料事情は厳しいままらしい。

 木曽氏は東天竺屋との取引を始めたことで、食糧の調達を頼んでいるそうだ。

 木曽中務大輔殿は、兼山に数日滞在することとなり、当家に出仕している一族や家臣たちと話をしたり、兼山を見聞するとのことであった。

 木曽中務大輔殿には、兼山で見聞を広げ、当家の力になってくれることを期待しよう。

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