織田弾正忠家の変化と農地開発

 津島へと久々に赴き、大橋殿の屋敷にて、織田弾正忠と会うこととなった。

 織田弾正忠と会うのは、互いに勢力が増したため、義兄弟同士で周辺情勢の認識などを擦り合わせ、歩調を合わせた方が良いと思ったからである。

 先日、織田弾正忠が尾張で催した蹴鞠会は好評だった様で、織田弾正忠の威勢を尾張に知らしめていた。

 しかし、守護代である織田大和守家や織田伊勢守家は健在である。

 織田弾正忠が尾張国主になるための障壁となっているが、そもそも織田弾正忠が尾張国主になる気があるかと言うと、今のところ無い様だ。


 織田弾正忠家としては商業を重んじるなど、重商主義的な立場を採り、革新的な政策を行う割には、体制的には保守的で、朝廷、幕府、守護を重んじていたりする。

 織田弾正忠は革新性と保守性の両方を持ち合わせた人物であった。

 織田信長は、21世紀では革新的な人物として取り上げられたり、実は保守的な人物だったとか騒がれていたが、実は父親の影響を受けており、革新性と始めていた保守性を併せ持った人物だったのかもしれない。



 そんな織田弾正忠家では、わしの影響を受けたためか、史実と異なる行動を取っている。


 織田弾正忠は史実では、重商主義的で、農地政策は放置していた様だが、この世界では支配地域で積極的に開墾や商業作物の栽培を行っているのだ。

 まぁ、わしが農地を増やせ、作物を増産しろと言ったのが原因なのだが。

 当家で召し抱えた家臣やその家族、かき集めた流民に買い集めた奴隷など、ここ数年、当家の食料需要が高まっている。

 当家と織田弾正忠家で薩摩に売っている食料を含めると、かなりの量になっていた。

 当家では、灌漑や溜池の整備、新規開墾と乾田への移行で食料の生産量を増やしていたが、織田弾正忠家にも農地開発をする様に促したのである。

 織田弾正忠も最初は放っておけば農民たちが勝手に生産すると言っていたのだが、津島にて食料を買い付けているため、伊勢湾地域の食料価格が上がっていた。

 大橋殿からも、織田弾正忠家の領地で農地開発をして、食料の生産量を増やすべきと意見具申をされ、織田弾正忠も農地開発を始めることとなったのだ。

 当家だけで白粉の生産が間に合わなくなり、織田弾正忠家でキカラスウリの栽培と白粉の生産をしてもらっていた。

 織田弾正忠家は、農地開発の経験自体はあるため、いざ農地を増やすと決まれば、織田弾正忠の行動は早かった。

 当家が灌漑や溜池を整備し、開墾で乾田を増やしていると知ると、当家に対抗してなのか、積極的に農地開発を推進している。

 交易で莫大な利益を得ているため、農地開発へ回す費用も問題ないなかったようだ。


 織田弾正忠が、予想以上に農地開発に力を入れていたので、三河国に綿の木があるらしいぞと教えてやったところ、織田弾正忠は目をギラつかせていた。

 その後、三河国に人を遣って、綿の木と種を取ってこさせたらしい。

 綿は、明や朝鮮からの輸入に頼っていて、戦国時代後期に国産化されるまでは高級品だったから、織田弾正忠がわざわざ探しに行かせるのも致し方ない。

 綿は日本へは延暦18年(799年)に、三河国に漂着した崑崙人(インド人)によって、もたらされたことで、栽培がされたそうだが、1年で途切れたらしい。この崑崙人は各地を廻り、栽培法を伝えたとされているが、どこかで栽培しているとは聞いていなかった。

 綿は肥料がしっかりと必要だとも聞いているので、上手く栽培出来なかったのだろう。


 綿は温かい土地の方が育ち易いと言うことで、織田弾正忠は領内の温かい土地で栽培をさせているそうだ。

 栽培の仕方は手探りの様だが、わしが21世紀の頃の知識で助言してやっている。

 そのため、徐々に綿花の生産量を増やしている様だ。

 綿の量産が叶えば、木綿の価格も下がり、様々な用途に使えるし、帆布を作れる様になるので、当家にとっても都合が良いのだ。


 織田弾正忠は、那古野城を手に入れたことで、更に領地を増やしたので、新たな領地でも農地開発を進めているらしい。

 織田弾正忠は、米などの食料だけでなく、商業作物にも目を向けて、領内の生産力向上に勤しんでいる様だ。



 織田弾正忠が当家の影響を受けたのは、農業政策だけで無く、直轄地を増やしたり、知行では無く、銭雇いの家臣を増やしている。

 直轄地の方が大規模に投資して開発出来ることに築いた様だ。

 織田弾正忠家が金持ちだから出来ることだけどな。

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