本願寺の大安売り(林立)

 久々に兼山に戻ると、本願寺勢力が更に揉めているとの報せが届いていた。


 細川、六角、法華一揆は相変わらず、各々の縄張りにある本願寺勢力の寺院を掃討している様だ。

 その矛先は、寺院を失った門徒たちにも及び、法華宗は改宗を迫り、細川と六角は門徒を乱取りして奴婢として売買したり、労役に使っているらしい。



 雑賀御坊へ逃れた本願寺一門は対立を深め、門徒たちに嫌われていた顕正寺蓮淳の長男である実淳は、蓮如の四男蓮芸の長男実誓と次男賢勝の勢力に逐われ、雑賀御坊から出ていったそうだ。

 実淳は、実弟である願証寺実恵を頼り、伊勢国長島に逃れたらしい。

 実淳が乗ったと思われる船から関銭を取ったと、佐治水軍から連絡が入っている。

 その後、雑賀御坊には、畠山氏が保護した称徳寺実誓が入り、再び混迷としている様だ。

 誰が主導権を握るかで再び揉めている様だが、紀伊守護である畠山氏の後ろ楯を有する称徳寺実誓が優勢らしい。

 称徳寺実誓の叔父である大和国の飯貝本善寺の住持である実孝も、興福寺と筒井氏に敗れ、雑賀御坊に逃れており、兄の子である称徳寺実誓を推しているそうだ。

 畿内での本願寺の有力寺院は雑賀御坊ぐらいの様だが、畿内の門徒たちが逃げ込んでいることで、ますます不穏な状況になっている。


 加賀国においては、超勝寺派と反超勝寺派に二分されているが、反超勝寺派も実悟派、蓮悟派、顕誓派に分かれて争っている様で、四派に分かれたものの、勢力が均衡しているため、どの勢力も長じることが無かった。

 しかし、母方の畠山氏の支援を受けた実悟は、自身を破門した本願寺証如と顕正寺蓮淳が討たれたのは、本当は両名が仏敵だったと訴えており、加賀国内での勢力均衡を崩すため、自らを本願寺を称してしまったのである。

 これに対し、蓮悟や顕誓は実悟が本願寺を称したことを怒り、自らが正統であると、それぞれ本願寺と称する事態となった。

 加賀国のそれぞれの支持者は、自分たちの指導者が本願寺を称したことを歓迎するとともに、反超勝寺間の対立が激化することとなる。

 その隙に乗じて、超勝寺派は巻き返せば良かったものの、超勝寺実顕も自らを本願寺と称したしまった。

 畿内に本願寺を称せる立場の者がいないためとの理由であったが、超勝寺支持者の中で、畿内の本願寺を支持する者たちは、超勝寺を見限り、超勝寺派は却って勢力を落とすこととなる。

 超勝寺からの分離派は、畿内から派遣されていた下間頼秀・頼盛兄弟が率いることとなり、加賀国の情勢は混沌としたものとなった。


 越中国では、顕誓の兄である安養寺御坊住持の実玄と瑞泉寺が治めていたものの、隣国の加賀国において、一門の者たちが本願寺を僭称し始めたため、越中国の門徒たちは実玄を擁立し、本願寺を称させることとなった。

 こうして、越中国の門徒たちは、加賀国の門徒たちと対立することになる。


 伊勢国・尾張国・美濃国の門徒たちを束ねる願証寺実恵は、畿内から逃れてきた兄の実淳を迎え入れていた。

 伊勢国・尾張国・美濃国の実情を理解する願証寺実恵は静観の構えを取っていたものの、兄の実淳は自らこそ父である顕正寺蓮淳の後継者であると自負し、伊勢国・尾張国・美濃国にて一向一揆を起こし、勢力を拡大すべきだと主張し始めたのである。

 静観すべきだと主張する願証寺実恵と実淳は意見が対立する様になり、伊勢国・尾張国・美濃国の門徒の中でも願証寺派と実淳派に分かれつつあった。

 実淳派は一向一揆を起こすことで、自らの勢力を拡張せんとの野心を抱いている。

 また、北陸で一門の者たちが本願寺を称し始めたことで、実淳は怒り、本願寺の実質的指導者であった顕正寺蓮淳の長子である自身こそが本願寺を名乗るべきだと思い込み始めている様で、その件についても願証寺実恵と意見がぶつかり合っている様だ。

 伊勢国・尾張国・美濃国の門徒たちも不穏な雰囲気を漂わせており、伊勢湾の情勢も不安定になってきていた。


 三河国の門徒たちは、静観の構えを示していたものの、北陸にて本願寺を称する勢力が林立したことを受けて、実如の四男である実円こそ正統であると擁立し、本願寺を称させる。

 本願寺証如に最も近い血縁は実円であったことから、本證寺も蓮如の子孫であったものの、実円を正統な法主である擁立することとなった。

 三河国の門徒たちは、越中国の門徒たちの様に、一応は纏まりを見せている様だ。


 畿内の本願寺に従っていた安芸門徒たちは、どうすれば良いのか分からなくなっており、静観するしかないらしい。


 本願寺勢力では、自らが正統と主張し、本願寺を僭称する者が林立し始めていた。これじゃ、本願寺の大安売りだな。

 これから、ますます本願寺勢力は混沌としていくのだろう。

 本願寺勢力を更に弱体化させるため、真宗高田派に接触するかな。




【本願寺勢力諸派】


☆紀伊国(畿内)

◇称徳寺・本善寺派◆実誓、実孝

◇富田教行寺・名塩教行寺派◆実誓、賢勝


☆加賀国

◇実悟派(本願寺僭称)◆実悟

◇蓮悟派(本願寺僭称)◆蓮悟

◇顕誓派(本願寺僭称)◆顕誓

◇超勝寺派(本願寺僭称)◆超勝寺実顕

◇中央派◆下間頼秀・頼盛兄弟


☆越中国

◇安養寺御坊、瑞泉寺(本願寺僭称)◆実玄


☆伊勢国・尾張国・美濃国

◇願証寺派◆願証寺実恵

◇実淳派◆実淳


☆三河国

◇本宗寺、本證寺、上宮寺、勝鬘寺(本願寺僭称)◆実円

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