常備軍の増強と心の支配

 東美濃の支配地域では、常備軍と客将に加え、流民と奴隷たちも訓練に励んでいた。


 客将である長野氏の家臣の中からも、客分では無く、仕官したいと常備軍に入ったものもいる。

 長野信濃守も、家臣たちの生活があるので、無理に引き留めてはいない様だ。

 長野信濃守を含め長野氏の将兵たちは、当家に来てから、常備軍と訓練を共にする様になり、当家の軍事のやり方を学ぶなど、常備軍の活動に随分と慣れている。


 兵の数を増やすために集めてきた流民たちは、当家の領地に来てから軍事訓練を施していた。

 雑兵としての最低限の訓練を終え、常備軍に入っても問題なさそうな者は、教官や指揮官の推薦などにより、常備軍に編入し、新兵の訓練を受けさせている。

 そのため、常備軍の数は東美濃攻めの前から、どんどん増えていた。

 雑兵から中々上がれない者が多かったが、今回の東美濃攻めで、流民から領民となることが出来た者が、それなりに出てくる。

 しかし、領民になったは良いものの、所詮は流民出身のため、出来ることも無く、田畑も無いため、結局は常備軍に入り、新兵としての訓練を受けることとなっていた。


 奴隷たちから雑兵に充てられた者たちは、雑兵としての最低限の訓練を受けた後は、日頃は軍務ではない労働に従事させている。

 今回の東美濃攻めにおいては、戦えそうな男の奴隷を動員して、兵数を増やしていた。

 労働に振り分けた現場で技術を身に付けるなど、必要にされていた場合は、動員の対象外にしていたがな。

 奴隷の雑兵の中にも、常備軍にしても良さそうな人材がいれば引き立てるのだが、該当する者がいないので、わざわざ解放して常備軍に入れることなどはしていない。

 ただ、率先して雑兵として従軍を希望する者は、加点して奴隷として解放する期間を短くすると告げているため、今回の戦でも奴隷の雑兵たちの士気は高かった。

 雑兵として活躍すれば、解放する期間が短くなるのだが、それよりも振り分けられた労働現場で、技能を身に付けて必要とされた方が、確実に解放される期間が短くなる。

 しかし、奴隷たちの中で、それに気付いている者は少ない様だ。


 今回、東美濃攻めで降伏して、当家に仕官した者たちも、常備軍に入れて訓練をさせている。

 新兵からの訓練なので、不満そうにしている者も多いが、当家のやり方も知らないのに、いきなり正規兵には出来ないので、訓練はしっかりと受けさせる。

 反抗的な場合は、教官や助教が厳しく指導をして、心を折りにかかっていた。

 彼等には、一日も早く常備軍の従順な正規兵になってもらいたいものだ。


 常備軍の訓練の中には、精神教育も取り入れており、主に神宮の神官に話をしてもらっているが、わしや平井宮内卿がたまに話すこともある。

 神宮の神官が話すことは、大抵は道徳についてだが、それは一種の洗脳であり、要は天皇や主(わし)に忠誠を尽くせや天照皇大神など日本の神々を信仰しろなどが中心であった。

 当家では、わしが熱心に神宮を信仰してると思われているのか、神宮に改宗する者が多い。

 奴隷たちに解放されたければ、神宮に改宗するのが条件だと言ったことが曲解されたのか、神宮を信仰しないと出世出来ないだとか、神宮を熱心に信仰したほうが出世しやすいなどの噂が流れ、改宗する者が増えた様だ。

 わしにとっては都合の良い勘違いをしてくれているので、敢えて訂正はしていない。

 能力があれば、神宮を信仰していなくても起用するがな。

本当に能力がある奴は、そんな噂をまず信じていない。

 精神教育や神宮の神官による布教もあり、常備軍の中で神宮を信仰する比率は、他部署に比べて遥かに多くなっていた。



 苗木の神明社を管理下に置いた神宮の神官たちは、東美濃の当家の支配地域でも布教活動を熱心に行っている様だ。

 元々の支配者の松尾小笠原が神明社を建立したことや新しい支配者が神宮を熱心に信仰しているという事で、神宮を信仰する者は徐々に増えているらしい。

 神宮の神官には、布教活動を頑張って、出来ることなら仏教勢力を追い出して欲しいものだ。



 当家の常備軍の規模は増え、訓練を課すことで、より従順な将兵を育てているが、精神教育によって将兵の心も徐々に支配することが出来ている。

 常備軍には、わしに逆らうことの無い軍になってもらわなければならい。

 そのために、当家と神宮の神官とは協力関係が築かれている。

 それは、領民にも及んでおり、領民の心も支配すべく、当家は神宮と協力していく必要があるのだった。

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