兼山出陣と大井城陥落

 わしが兼山に戻った頃には、東美濃を攻める準備の大半が調っていた。

 まぁ、一年以上前から攻めると言っていたのだから、平井宮内卿たちが軍の準備をしている。

 大森菅助も西国から戻ってきており、平井宮内卿を補佐していた。


 東美濃へ出陣する前に、家族の様子を観に行くことにする。

 第一夫人の栄子はそろそろ出産の時期が近付いており、今回は陣中で我が子が産まれたとの報告を受け取るかもしれない。

 嫡男の多幸丸は、九條稙通卿から傅役として派遣された唐橋家の次男の唐橋昭孝殿から手習いを受けていた。

 第二夫人の御南も懐妊しているため、部屋でお鶴や虎千代の相手をしている。

 虎千代にも傅役を付けなければならないが、彼の将来を考えると軍人を付けてやりたい。

 望ましいのは大森菅助であるが、平井宮内卿の補佐も必要であるし、難しいところだ。

 東美濃を攻め取った後に、平井宮内卿たちと話し合ってみるか。



 わしは、約五千の兵を率いて兼山を出発した。

 主力である常備軍、新たに召し抱えた薩摩武士、所有する奴隷たち、養父から預かった兵、長野氏たち客将など、最低限の守備兵を残し、何とかかき集めた数だ。


 木曽川沿いは軍を進めるのに適していない山間部のため、土岐川沿いに進軍していく。

 道中の国人領主たちには、土岐頼芸様から東美濃切取次第を給わった段階で通行の許可を調整している。

 道中で、明智家当主である明智光綱殿の弟である明智光安殿が率いる明智軍と妻木軍が合流した。

 明智家は養父の正室を出し、婚姻関係にあるので、援軍を出してくれたのであった。

 明智家と関係の深い妻木家も付随する形で援軍を出してくれている。

 わしは両家とも関係が深く、取引を頻繁に行っているので、日頃から協力関係にあるしな。


 道中、勝ち馬に乗らんと、援軍を出してくれる国人たちも現れる様になる。

 松尾小笠原家は本家である府中小笠原家に押されており、東美濃の領地を何とか維持している状況であった。

 松尾小笠原家が大井城に援軍を出せるとは思えない。


 順調に大井城まで辿り着いた我々は、大井城を包囲する。

 降伏勧告の使者を出すものの、当然拒絶をされた。

 実質的総指揮は平井宮内卿に任せ、被害をなるべく出さない程度に攻め、様子を見る。

 大井城には、何年も前から忍衆を何人も忍び込ませており、城の情報は既に得ていた。

 松尾小笠原家が府中小笠原家と争っているため、大井城の守備兵はそんなに多くない様である。


 あまり時間を掛けたく無いので、御倉衆が開発した試作段階の焼夷兵器を使ってみることにした。

 臭水(原油)など様々な物を混ぜ合わせた試作品らしく、わしが望むような焼夷兵器では無いが、水では火が消えにくく、木造物など燃やすには良いらしい。

 わしは、忍衆たちに焼夷兵器を持たせて、夜間に門を燃やさせることにした。

 暫くすると、門から火の手が上がる。

城兵たちは慌てて消そうとするも、火の勢いは強く、消火出来ない様だ。

 真っ暗な夜に燃える城門はよく目立っていた。

 翌朝、城門を失った敵兵は、防御が困難な櫓などを壊し、後ろの曲輪に下がった様だ。

 我々は城内に兵を入れ、再度降伏勧告を行う。しかし、敵方は再び降伏勧告を拒否する。

 我々はそのまま攻め立てるが、その最中に敵方で混乱が起こった。

 「裏切りだ!」「内通者が火を放った!」などの声が聞こえる。

 忍び込ませた忍衆たちが火を放ったり、流言を放っている様だ。

 我々は、その混乱に乗じて、大井城を攻め立て、攻め落としたのだった。

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