薩摩島津家と尾張織田弾正忠家の情勢

 秋になり、日本各地の情勢も徐々に動き出していた。


 薩摩の島津家では昨年、島津勝久の老中である川上昌久が、勝久を諌めようと、寵臣の末弘忠季を殺害し、島津勝久は禰寝重就を頼って、根占に逃亡していた。

 しかし、今年になって鹿児島に戻り、川上昌久を大興寺にて切腹させたらしい。

 更に、島津勝久は、川上氏の居城を攻めたそうだが、川上昌久室と家臣たちは、嫡男の川上久隅を擁して籠城し、島津勝久の軍勢を退けたそうだ。


 この事態に、日向を治める豊州家の島津忠朝と北郷忠相は怒り、日和見を止め、島津勝久方では無く、伊作家方に付くことを決めた。

 そして、豊州家の島津忠朝と北郷忠相と犬猿の仲である新納忠勝は島津勝久方に付くことになったそうだ。

 史実では、島津勝久方に島津忠朝と北郷忠相、伊作家方に新納忠勝であったが、当家が伊作家に関わったことで、逆になってしまった様である。

 また、島津忠朝、北郷忠相、北原久兼は密約を交わし、内紛で混乱する伊東氏を三軍で攻め、伊東氏領の三俣院高城を獲得した。

 この不動寺馬場の戦いにおいて、伊東軍に壊滅的打撃を与えることとなる。

 伊東氏は家中の内紛に加え、この敗戦によって三俣院の維持が困難となり、三俣院から軍勢を引き上げざるを得なかった。


 島津実久は川上昌久を切腹させたことに憤激しているらしく、島津勝久方で川上昌久と親しかった者たちが集まっているそうだ。

 島津実久は、遂に島津勝久を除く意思を固め、同年8月に川上氏と共同して勝久を襲撃した。島津実久方の兵は、鹿児島を攻めた際に街を炎上させてしまっている。

 島津実久に敗れた島津勝久は、島津実久に与した老中や直臣に見捨てられ、島津実久に「屋形」号を譲って帖佐へ逃亡することとなった。

 しかし、翌9月に日向国真幸院の北原氏と大隅国帖佐の祁答院重武の協力を得て反撃に及ぶ。

 島津勝久は祁答院重武、肝付兼利らとともに鹿児島を攻め攻略した。

 島津勝久は、初戦こそ勝利したものの、谷山に進撃したところ、敗れて肝付兼利が戦死する。

 翌10月、島津勝久は帖佐に再び逃亡し、島津実久が鹿児島に入ることとなった。

 島津実久は、老中たち守護家の家臣団や島津実久方の国人領主たちに推され、守護職に就く。


島津実久と島津勝久が争っている間、その隙を突いて、伊作家の島津日新斎は薩州家の南薩最大の拠点である加世田を傭兵として雇っていた根来衆とともに落としたのである。

 島津勝久を破って鹿児島を得たとは言え、南薩最大の拠点を奪われた島津実久は、とても悔しがっているそうだ。

 伊作家の背後を脅かしていた加世田を奪われてしまったのだから、伊作家の後顧の憂いは断たれてしまっており、伊作家は安心して島津実久と戦うことが出来る。


 薩摩の情勢は更に混迷を深めそうだな。



 尾張においては、我が義兄にして親友の織田弾正忠にも更なる動きがあった。

 享禄3年(1530年)、尾張守護代で大和守家当主の織田達勝は、守護である斯波義統の代理として、兵を率いて上洛した。

 しかし、軍事目的の出兵では無かったため、特に成果も無く尾張へ帰還することとなる。

 この行動に、織田氏一族が多いに反発し、大和守家の権威は失墜してしまった。

 凋落する大和守家に対し、その家臣である織田弾正忠家の勢威は日に日に増しており、豊富な財力を以て、その勢力を拡大させている。

 更に、今年に入って那古野城を計略で落とした織田弾正忠家の勢威は、主家である大和守家を凌ぐほどになっていた。

 そのことを苦々しく思っていた織田達勝は、自身が勧めた守護家と今川那古野氏の婚姻を破綻され、面子を潰された形となったことで、より織田弾正忠を更に憎む様になる。

 そして、織田達勝は織田弾正忠と戦うことを決意した。

 織田弾正忠家と同じ清州三奉行の一人で、小田井城を治める織田藤左衛門家とともに、織田弾正忠家と戦いを始める。

 しかし、織田弾正忠は織田達勝の娘婿であり、織田達勝の行動に対し、正室である織田達勝の娘と離縁と言う形で応じた。

 そして、織田弾正忠と織田達勝・織田藤左衛門連合の戦いは、あっさりと織田弾正忠の勝利に終わった。

 織田弾正忠は財力・兵力において、織田達勝・織田藤左衛門連合を凌駕しており、負けるはずが無いのだ。

 織田弾正忠も織田達勝・織田藤左衛門連合を追い詰めることも無く、速やかに和睦に応じた。

 織田弾正忠家の声望は益々高まることとなり、織田大和守家と織田藤左衛門家の権威は更に失墜することとなったのであった。


 尾張は、義兄の織田弾正忠が飛び抜けて頭角を現しており、弾正忠の下で尾張が纏まって欲しいものだ。

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