祖父と妹の到着と兼山での暮らし
黒田下野守が九條卿とともに京へ向かって、一月ほど経った頃、黒田下野守たちが間もなく到着するとの報せを受けた。
今度やってくるのは祖父・近衛尚通と妹・珠子と言うことで、九條卿の様に屋敷を用意せず、わしの屋敷で暮らしてもらうつもりだ。
兼山の屋敷の前で祖父たちを待っていると、遠くから護衛の武官たちの姿が見える。
祖父と妹の輿だけでなく、側仕えの女房や下人たちも伴っているので、中々の行列だ。
暫くすると、祖父たちが乗っていると思われる輿が屋敷の前に止まった。
輿から、祖父と妹が降りてくる。
祖父は少し老け込んではいたものの、元気そうである。
妹とは、数えで三歳の頃に分かれたきりで、今は数えで七歳になっているので、随分大きくなっていた。
「祖父上、御久しゅうございます」
「庄五郎、久しいな。随分、立派になったものだ」
祖父は感慨深そうに、わしを見つめている。
すると、妹も、わしに声を掛けてきた。
「兄上、御久しゅうございます。」
「珠子か。随分、大きゅうなったな。わしが家を出た頃は、こんなに小さかった」
わしが指で大きさを示すと、そんなに小さく無いと怒っている。
久々に家族と会うと感慨深いものだ。
屋敷に仕える者たちに、祖父と妹の部屋へ案内させ、旅装と解いてもらう。
時期を見計らって、谷野一栢や女科医たちに、祖父と妹の健康状態を診断してもらうつもりだ。
一応、側仕えの者たちも、谷野一栢の弟子たちに診させた方が良いだろう。
祖父と妹には旅装を解き、医師たちの診断を受けてもらった後、別の部屋にて、わしの妻子を紹介する。
祖父は、嬉しそうに妻子の紹介を受け、妹は少し緊張している様子であった。
妻たちと妹が打ち解けるとも、少し時間がかかるだろうな。
妻たちの紹介を終えた後、祖父たちが到着したと言うとこで、歓迎の宴を催した。
「兄上、美味しゅうございます!」
妹は出された料理を口にし、嬉しそうに美味いと言う。
摂家の姫として、はしたないと側仕えの女房に窘められ、祖父も苦笑していた。
しかし、当家の食事が美味いからか、祖父も妹も食い付きが良い。
摂家の近衛家とは言え、他家に比べれば良い食生活であるが、当家の食事に比べれば、侘しいものだからな。
祖父と妹も来たばかりなので、肉料理は少ししか出さなかったが、多幸丸の食事は肉を多目に出させている。
祖父は、やはり肉食に抵抗がある様だ。
そして、食後に口直しの菓子を出したら、祖父も妹も驚いた様子を見せる。
まぁ、都でも甘い菓子など中々食べれないだろうからな。
しかし、実家には砂糖など送っているはずだから、食べれるのではと思ったところ、仕送りで送っている砂糖は父・稙家が管理している様で、あまり口に出来ないそうだ。
自身の派閥や関係のある勢力に配って、自身の力を誇示しているのかもしれない。
祖父も妹も満足した様子で、その日の宴を終えた。
祖父と妹が兼山で暮らし始めたが、京との生活の違いに戸惑っている様だ。
まぁ、京と兼山では生活環境が随分違うから仕方ない。
毎日、医師たちに健康診断させているが、特に異状は無い様だ。
当家では、毎日三食に分けて食事を摂っているが、冷静に考えたら、この時代は二食だったな。
当家の家臣たちもすっかり慣れてしまっているので、気付かなかった。
また、祖父は九條卿から牛乳を飲めると聞いていたらしく、到着した次の日には、早速所望されてしまう。
京でも随一の文化人であった祖父は、牛乳を飲めたことで、感動していた。
祖父も兼山での生活が慣れ始めたところで、当家での教養の指南をお願いしたのだが、わしが教養を随分サボっていたことがバレてしまい、お小言を頂戴することとなってしまった。
九條卿の時は、たまに連歌会などに参加する程度だったので、京にいた頃に比べると、衰えているのだろう。
武士になったのだから要らないと言えば、お小言の時間が長くなるので、仕方ないから祖父の指南を受けることにした。
妹も妻や子供たちと打ち解けた様で、兼山での生活を楽しそうに過ごしている。
祖父と妹も良い食事を摂っているからから京から到着した頃より、血色が良くなっていた。
それだけでも、祖父と妹を兼山へ招いて良かったなと思う。
父が更に妹を作ったら、妹たちのためにも養女として迎えることとしよう。
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