山田式部少輔有親⑦高砂国北部統治と高砂国における身分

◇山田式部少輔有親


 川俣十郎殿が、倭寇狩りに出発し、高砂国北部の警備を引き継いだ俺は、高砂国北部の統治を始めた。

 高砂国北部の統治と言っても、主は高砂国北部に住まう凱達格蘭(ケタガラン)族の取り纏めだろう。

 噶瑪蘭(クヴァラン)族は、住んでいるところが、噶瑪蘭湊から離れており、協力的であることから、今はそのままにしている。泰雅(タイヤル)族は、山の中で生活しており、拠点としての統治しても割りに合わない。

 しかし、凱達格蘭族の住んでいるところは、湊にするには良い場所であり、奥地も平地が続いていることから、高砂国統治の本拠地に相応しい土地である。

 そのため、力尽くで従えた訳だが、彼等がいつまでも大人しく従っているとは限らない。

 我々は、凱達格蘭族を領民として統治せねばならないのだ。


 噶瑪蘭湊から逐次、人材が到着している。文官、職人、神官、奴婢に加え、噶瑪蘭族たちだ。

 凱達格蘭族の言葉の分かる噶瑪蘭族を通じて指示を出し、日ノ本の言葉を覚えた噶瑪蘭族を通じて凱達格蘭族に言葉を覚えさせる。

 神宮の神官たちは噶瑪蘭族の神々について聞き取り、神道に照らし合わせて、布教を始めていたが、凱達格蘭族にも同様に聞き取りと布教をしてもらう。

 大工たちには湊を整備させ、建物を建てさせる。一部の奴婢たちには、大工の指示の下で作業をさせていた。

 奴婢たちには、栴檀の葉を集めさせ、煎じた水薬を作らせ、水薬を使いながら、汚い沼地の埋め立てや綺麗な沼地への魚の放流を命じている。

 この沼地の作業をしたことで、噶瑪蘭族の住まうところでは蚊が減り、疫病も減るなど効果は出ていた。泰雅族も自分たちの住まうところで沼地作業をさせている。

 この沼地作業は、凱達格蘭族にも奴婢に混じってさせており、他の凱達格蘭族の住まうところでもやるように命じている。

 噶瑪蘭族から話を聞いた凱達格蘭族も進んで沼地作業をする様になっている様だ。


 我々が凱達格蘭族を攻めた際に捕らえた倭寇たちは、十四日の間、集落から離れた場所に小屋を建てて生活させ、異状が無かったら奴婢として働かせている。

 倭寇の中でも上役の者は、琉球へ送り、下っ端の者は奴婢として残したていた。

 この十四日の間、高砂国外から来た者を離れた場所で生活させるのは、外から持ち込まれる疫病を防ぐためらしく、殿が定められたことだ。

 倭寇の中には、明人に紛れて、日ノ本の者もいたが、構わずに奴婢として扱った。

 明と日ノ本の言葉が分かるものや、何かしらの技術を持っている者は別の扱いをしている。

 しかし、彼等の多くは、奴婢の中でも最も低い地位にあり、罪人と等しい扱いをしていた。

 御倉所から派遣された甲賀者が汚物運びの仕事をさせる者を必要としており、倭寇奴婢や罪人奴婢は、御倉所で働かせている。

 ここに所属する者は決して奴婢の地位から解放されない。

 死ぬまでこき使われるのだが、当家の領内では汚物運びはそう言った扱いであり、家政を担う御倉所が取り仕切っていた。

 なので、俺が知ることは少ないし、知ろうとすればどうなるか分からないので、関心を抱かない様にしている。


 殿は高砂国統治に当たって、身分を定められていた。

 第一身分として殿の家臣であるが、文武官や家政で働く者であるが、派遣された技術者や神宮の神官も相当する。

 高砂軍に入った泰雅族の若者たちも、高砂軍の武官として殿に仕えているため、第一身分として扱われていた。

 第二身分は、領民であり、領民とは第一身分の家族や領民として解放された奴婢、領民となった部族と定められていた。協力的な高砂国の部族も第二身分に相当する。

 その他は基本的に奴婢であるが、奴婢の中でも身分があり、薩摩出身の奴婢、その他の出身の奴婢、倭寇・罪人の奴婢と言う順番になっている。

 薩摩出身の奴婢は、薩摩武士たちが高砂国開発に尽くしているたて、他の奴婢より上位に置かれ、優先的に解放されるそうだ。

 その他の出身の奴婢も殿のために尽くせば解放される。

 しかし、倭寇・罪人の奴婢は先ほど言った通り解放されることは無い。

 奴婢が解放されるには、神宮に改宗していると言う条件があるので、どんなに殿のために尽くしていても、他の宗教のままでは解放されることは無いらしい。

 それどころか、改宗する気の無い奴婢は罪人奴婢に落とす様に指示されている。


 取り敢えず、凱達格蘭族を領民とすべく、統治に目を光らせる必要がありそうだ。

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