山田式部少輔有親⑧高砂国北部の農業・商工業の芽吹き

◇山田式部少輔有親


 川俣十郎殿が出発前に、南蛮からの交易船が帰って来ていた様で、新たな苗や種、家畜などが届いていた。

 前回届いた種とは別に、新しい野菜の種が届いている。

 これから春を迎えるので、日ノ本から派遣された農業技術者に渡して、栽培をさせるとしよう。

 新しい木や椰子の苗などは、凱達格蘭の地で植えることにした。

 新しい山羊の番は、噶瑪蘭湊では無く、凱達格蘭の地で育てることにする。殿からは追加の番から子が生まれたら、噶瑪蘭湊の山羊の子と交換して子を作らせる様にと指示されていた。

 噶瑪蘭湊の山羊も孕んでおり、春の終わりに子山羊が産まれそうだ。山羊の乳は滋養に良いらしく、飲んだ方が良いらしい。


 高砂国では、田畑を新たに開墾しており、乾田や灌漑を整備しているが、殿から日ノ本の米は育たないかもしれないと言われていた。

 そのため、高砂国の米を育ててみる様に言われており、高砂国の部族に尋ねたところ、米はあるらしい。

 試しに米を分けてもらい食べてみたところ、日ノ本の米とは随分違う様である。

 農業技術者は、殿から高砂国の米を、琉球の米や薩摩の米などと掛け合わせて、新しい米を作ってみる様に指示を受けているらしい。

 高砂国の米と琉球の米を掛け合わせて、新しい米が出来たら、次は薩摩の米と掛け合わせるなど、徐々に日ノ本の色々な米を掛け合わせて、上手い米を作るつもりのようだ。

 農業のことは詳しくは分からないので、農業技術者に任せることにした。



 東天竺屋の者たちも凱達格蘭の地にやってきており、商店や遊女屋を開き始めていた。

 遊女屋を開くのは、兵や船乗りが、高砂国の部族の女子に手を出して、反乱を引き起こしたりしない様に、殿から命ぜられているのだ。

 倭寇と取引していた凱達格蘭(ケタガラン)族は、交易品を対価に女子を買っていた様だが、殿は部族たちの反感を買うことがない様に、なるべく部族の女子を買わせたく無い様だ。

 しかし、東天竺屋の者に話を聞くと、薩摩の奴婢で見目麗しい男女は志摩に送られてしまうらしい。

 残った薩摩の女子では遊女にするには些か不味い様で、琉球から見目の良い奴婢の女子を買い付けて、遊女にすることにした様だ。

 琉球でも、当家の船員や兵向けに遊女屋をしているから、買い付けには特に問題ないらしく、女子の扱いや買取りの金額が良いことから、東天竺屋に買われたがる者が多いらしい。

 噶瑪蘭湊の遊女屋の遊女も殆どは琉球から買い付けた女子たちだそうだ。

 当家では、兵も船員も定期的に梅毒の確認を上官がすることになっているので、梅毒に罹っている者は、そんなにいない。

 たまに琉球や別のところで遊女を買って、梅毒を貰ってくる者がいるのだが、そう言った者は志摩に送られて、医師たちに生け贄として捧げられてしまうと言う噂だ。

 殿は梅毒などの性交の病に大変気を遣われているが、戦力を保ち続けることを考えると、殿の考えは間違っていないだろう。



 殿が求めている石炭を掘り出して琉球に送ることも忘れてはいない。

 石炭を掘り出しては、噶瑪蘭湊へ送っていた。

 この石炭が、良いものなら高砂国でも取り扱いたいが、どう使うか分からないので、何れは殿から指示があることだろう。



 殿から派遣された船大工たちも、奴婢を使いながら、造船所を建設している。

 志摩で明船を造った経験を生かすとともに、志摩の造船所を観て、殿が出された意見や職人たちの意見を交えた造船所を建てているそうだ。

 志摩の造船所へも殿は定期的に訪れ、意見を仰られるそうで、職人たちも戦々恐々としているらしい。

 殿は都の出ながら、職人たちが驚かされる様な意見を仰られるらしく、明や書物の知識と言うのも、職人の経験に劣らぬほど凄いものだと職人たちは思い知らされるそうだ。



 こうして、高砂国北部の農業や商工業も徐々に芽吹いていくのであった。

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