山田式部少輔有親⑥凱達格蘭族征服
◇山田式部少輔有親
俺が泰雅(タイヤル)族の制圧を終え、噶瑪蘭湊に戻り、支配下に入った噶瑪蘭(クヴァラン)族などを取り纏めていると、琉球から戻った船から、殿からの書状が届けられる。
殿からの書状を読むと、高砂国北部で、石炭と言う黒くて燃える石が採れるそうなので、早急に占領して、日ノ本へ送ってくれとの内容であった。
高砂国北部の凱達格蘭(ケタガラン)族を平定する許可を殿からいただこうと思っていたところなので、わざわざ許可を取る必要が無くなったな。
凱達格蘭族を平定したならば、書状とともに派遣された船大工たちとともに、造船所を作るようにとの指示もあった。
殿は高砂国の本拠地を高砂国北部に築くつもりの様だ。
川俣十郎殿たちが戻ってきたら、協働して凱達格蘭族を平定するとしよう。
支配下に置いた噶瑪蘭族の協力者たちから、凱達格蘭族についての情報を得る。
噶瑪蘭族の北部の者たちは凱達格蘭族と交易しており、言葉も通じる様だ。
凱達格蘭族は倭寇とも取引しているらしく、彼等の領域に倭寇の船が泊まっていることもあるらしい。
引き続き凱達格蘭族についての情報を集めつつ、徴兵した泰雅族たちを訓練し、高砂国の内政について文官たちとこなしていると、川俣十郎殿たちの船が戻ってきたとの報せを受ける。
戻ってきた川俣十郎殿たちから報告を受け、殿から高砂国北部の占領を命じられた旨を伝えた。
すると、川俣十郎殿たちも倭寇狩りをする上で、高砂国北部に拠点が欲しかったらしく、協働することに賛同する。
我々は、高砂国北部を平定するための準備をし、年明けに兵を出すことにした。
年が明け、俺は高砂軍と泰雅族、海軍の歩兵は川俣十郎殿と神代勝利殿、海軍の船は九鬼宮内大輔殿が率いることとなった。
現在、高砂国には七隻の明船があるが、その内の一隻は琉球との海運に使うため、六隻に乗船してでの攻撃となる。
泰雅族は普段は山に住んでいるため、船に乗るのを不安そうにしていた。
そんなこと御構い無しに、高砂軍と噶瑪蘭族の協力者ともに乗せる。
全軍が乗船を済ませ、我々は高砂国北部へと向かった。
高砂国北部へ向かうが、噶瑪蘭族たちの住む平地から北はあまり開けたところが無く、そのまま海岸沿いに進むと、開けた土地とその側に島があるのが観えてきた。
あの開けた土地が凱達格蘭族の住まう地域なのだろう。
そのまま船を中に入れていくと、凱達格蘭族の漁船が航行していおり、明船は見慣れているだろうが、噶瑪蘭族が乗っているので、こちらの船を不思議そうに観ていた。
凱達格蘭族の湊を観ると、三隻の明船が泊まっている。
あれが、凱達格蘭族と取引している倭寇の船だろう。
事前に取り決めていた通り、高砂軍と泰雅族は凱達格蘭族の湊と集落を制圧し、海軍は倭寇の船を攻撃する準備をする。
高砂軍の乗った船は、湊に着くと高砂軍の兵たちを下船させる。
凱達格蘭族は普段見掛けない者たちが現れたので、多少戸惑っていたが、噶瑪蘭族の通訳に時間稼ぎをさせた。
高砂軍が全員下船し終えたのを確認すると、俺は部下に合図をさせる。
合図を聞いた海軍の船は、倭寇の明船に自船をぶつけ、海軍の歩兵たちは倭寇の明船に乗り込んでいく。
湊にいた凱達格蘭族と倭寇たちは驚き慌てふためく中、噶瑪蘭族の通訳は話していた凱達格蘭族を捕らえ、人質にして降伏する様に呼び掛けた。
それで降伏する訳も無く、高砂軍や泰雅族の兵たちも倭寇や凱達格蘭族に襲い掛かっていく。
事前に、なるべく生かすようには伝えているが、無理そうなら殺して良いと言っているので、どれだけ加減するか分からないが、高砂軍と泰雅族たちは喜び勇んで、襲い掛かっていた。
噶瑪蘭族の協力者たちが、襲い掛かっているのは泰雅族だぞと言うと、凱達格蘭族は明らかに及び腰になり、逃げる者や降伏する者も現れ始める。
倭寇は何が何だか分かっていない様で、戦い続け、高砂軍や泰雅族に討ち取られていった。
数時間後、我々は凱達格蘭族の湊と集落を制圧し終えた。
凱達格蘭族は奇襲による混乱と泰雅族に怯え、降伏した者や逃げた者が多かったからか、死傷者は少なかった。
反対に、倭寇は抗戦したため、生き残りも少ない。
我が軍は奇襲に成功したため、怪我人はいたものの、死者を出すことは無かった。
噶瑪蘭族の通訳を通じて、占領した凱達格蘭族に我々の支配下に置くことを伝えさせる。
いきなりの奇襲と泰雅族の襲来に、凱達格蘭族は明らかに怯えており、我々の支配下に入ることを受け入れた。
素直に従う姿勢を示したため、凱達格蘭族の死体は彼等に還すことにする。
そして、俺は集落の広場に倭寇の死体と捕虜を運ばせた。
今回の泰雅族の義勇兵や高砂軍に属する泰雅族に報いるため、首を与えてやらねばならない。
まずは、義勇兵の首狩り未経験の者から、倭寇の死体の首を刎ねさせてやる。
死体の首を刎ねた若者たちは、両手で首を捧げ持ち狂喜する。
その光景を観た凱達格蘭族や倭寇たちは恐怖に震えていた。
高砂軍と海軍の兵たちも、泰雅族の様子に動揺している。
次は、入れ墨の入った首狩り経験者の義勇兵に死体の首を刎ねさせてやった。
最後は、高砂軍に属する泰雅族の若者たちに首を刎ねさせていくが、兵の数に対して死体の数が足りていない。
俺は、特に功ある泰雅族の若者を最後に残していた。
捕らえた倭寇で助からない者や怪我の重い者などの生きている者を連れてこさせる。
高砂軍に属し、功ある泰雅族にどの様に報いてやるか見せ付けるため、生きた者の首を刎ねさせてやることにしたのだ。
残った泰雅族の若者たちは、生きた者の首を刎ね狂喜し、それを観た他の泰雅族たちは羨ましそうに観ていた。
そんな泰雅族たちを観る多くの者たちは、その光景に震えていたがな。
凱達格蘭族の湊を押さえた我々は、他の凱達格蘭族たちを平定すべく準備を調える。
支配下に置いた凱達格蘭族や噶瑪蘭族を通じて、支配下に入る様に促し、逆らう集落は武力で従えた。
泰雅族たちの領域に接する集落は、結構な頻度で被害に遭っているらしく、泰雅族を従えていることを伝えると、すぐに従う姿勢を示した。
泰雅族の被害に遭っていない集落の方が反抗的であった。
高砂軍が凱達格蘭族を平定している間に、海軍に凱達格蘭族の湊を押さえてもらい、噶瑪蘭湊から文官、技術者、奴隷などの一部を連れてきてもらっていた。
船大工たちは、凱達格蘭族の湊から出たところにある島に造船所を造るらしい。
我々も、その島に高砂軍の城を築くことにした。
高砂軍が不在の間に、海軍の方で凱達格蘭族に石炭について聞いていたらしく、掘り出しに成功して、日ノ本の殿の元へ送ってくれたそうだ。
占領した湊や島については、俺が報告の書状を書いて預けておいたので、石炭とともに、送ってくれたとのことだ。
俺は引き続き、凱達格蘭族の平定した地域についての報告の書状を書くことにしよう。
高砂軍に属する泰雅族には入れ墨を禁じているので、入れ墨に代わる何かを考えねばならないが、殿に御伺いを立ててみることにするか。
海軍は、高砂国北部に拠点を手に入れてことで、倭寇狩りを再会するそうだ。
◇泰雅族の首狩りについて
泰雅族の首狩りについて彼等に問うたところ、首狩りは葬儀や農業と関係する宗教的な儀式の様なものであるらしい。
主に、男子にとって社会的に重要な通過儀礼であり、敵の首を狩った者のみが、刺青を入れることを許される。
刺青が無い者は社会的に無視され、結婚すらできないそうだ。
更に、狩った首の数が多いと、特別な衣服や装飾をつける権利を得ることが出来るらしい。
そのため、集落の有力者となると、少なくとも十数個の首を狩っているそうだ。
集落内で揉め事が発生した場合に、長には裁きや調停をする権限は無く、首狩によって、オットフ(神霊)の御告げを仰ことで解決する。
伝説によれば、泰雅族の祖先の時代に、人口が増加し、村を分けることになった。
その際、平地の部族は山地の部族を騙して、族人を多く得たので、山地の部族は復讐として首狩りをする様になったのだと言う。
この伝説が、集落内の揉め事を解決するため、関係の無い集落を襲って、首を狩る理由にされている様だ。
首狩りの期間は、様々な禁忌があるそうで、縁談、狩猟、農耕、炉火の受け渡しは禁じられるそうだ。
紛争の解決のための首狩りでは、対立する両人や両派の間での相互交通を禁じられる。
首狩りに失敗した際は、夜の闇にまぎれて密かに帰る。
不吉を祓い、次の満月を経ねば再び首狩りを行うことは無い。
失敗の原因が、留守中の集落内で禁忌を犯した者がいた場合は、それに該当すると認められた者は賠償の責を負う。
首狩り(出草)は、通常は十人ぐらいで行うそうだが、個人で行う場合や五十人近くで行なわれる場合など様々らしい。
集落の長や有力者を長とし、最初は首狩りの祈願を行なう。
出発や進退の際は、夢や鳥の鳴き声で吉凶を判断する。
首狩りの拠点に到着すると、再び成功を祈り、結束を固め、祓を行なう。
多人数の場合は、それぞれの分担を決め、狙撃、突貫などで敵を倒す。
首を落とす際は急進し、蕃刀で切断するらしい。
刺青のない少年が報酬を出すことで、首狩りの権利を譲ってもらうこともあるそうだ。
戦利品は首を狩った者のものとし、事が終われば直ちに逃げ出し、渓流で首を洗い、額に蔓を通して運びやすくする。
首狩りの集団が、集落に帰還すると、集落の族人全員で、歓呼して凱旋を讃え、首は狩った者の家の棚の上に置き、ライポーという酒を口に含ませ、供物を供え、祭辞を呈する。
そして、夜通し歌い踊り、翌朝に首を長の家に移し、酒肉を供し再び宴を開く。
その後、首を頭架の中央に据え、さらに数日間、宴会を続ける。首の肉が腐り果てるまで、絶えず口のあたりに供物を擦り込み、少年はそのお下がりを食べ、度胸や忍耐を養うらしい。
ここまでが、首狩りの一連の流れだそうだ。
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